気候変動による自然生態系の変化は、農林水産業や観光業、水環境など他の分野にも影響を与えます。社会全体の影響を低減させ、気候変動に適応するためには、生物多様性を維持し、環境を保全・活用していくことが重要です。今回は、自然生態系への影響と適応策をご紹介します。
■影響 気候変動による生態系の変化
生物生存の基盤となる気温や降水量などの環境条件が変化すると、それに応じて生態系も変化していきます。気候変動に伴う生態系の変化は世界各地で既に現れており、日本でも植生の変化や一部の野生動物の分布拡大、サンゴの白化現象などが確認され、将来さらに進んでいくと予測されています。
▽桜の開花日が早まる
2023年の開花日は3月22日で、50年前と比べて10日早くなっています。(銚子市の記録)
▽竹林の生息適地が拡大
分布上限、北限付近においてモウソウチクやマダケが拡大。東日本における生息分布が、現在の35%から将来61~67%(3℃上昇の場合)になると予測されています。
▽ニホンジカやイノシシなどの野生動物の分布が拡大
越冬可能な地域が拡大し、農作物や植生に影響をもたらしています。
▽外来種の定着
ヒアリなどの熱帯・亜熱帯域起源の侵略的外来アリが、国際的な物流により運ばれ、国内で定着・分布拡大しています。
■適応 生態系の保全・活用による「適応」
生態系の変化を、人為的な対策のみで広範に抑制することは不可能です。生態系を保全・活用するという観点で、適応策を進める必要があります。
・モニタリングによる種の変化の把握
・特定外来生物の防除対策の実施
・気候変動以外の要因も含む、生態系へのストレスの低減
▽Eco-DRR(生態系を活用した防災・減災)
環境省が作成した「持続可能な地域づくりのための生態系を活用した防災・減災の手引き」では、印旛沼流域における生態系活用の取り組みが紹介されています。
■今回のまとめ
気候変動の進行は、熱中症や水害の増加など、さまざまな困難をもたらします。しかし、これらのリスクは、地形や植物など自然の機能を活用することで減らすことができます。例えば、住宅地付近の樹林は涼しい風を提供します。また、佐倉市内にも多数存在する谷津の地形は、雨水を貯留し水害リスクを減らす機能があります。
温暖化の進行や大雨の増加が考えられる今後、樹林や農地(遊休農地を含む)などの存在はますます重要になるでしょう。
国立環境研究所 気候変動適応センター 副センター長 西廣 淳
出典・イラスト:気象庁、気候変動適応情報プラットフォーム、消費者庁イラスト集
次回3月1日号では、「気候変動による水環境、水資源への影響」についてご紹介します。
問合せ:気候変動対策準備室(企画政策課)
【電話】484-3374
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