前川千帆(せんぱん)《雪の余呉湖(よごこ)》
木版多色摺、紙
大正13年(1924) 千葉市美術館蔵
余呉湖とは、滋賀県長浜市にある湖。鏡のように静かな湖面や羽衣伝説、古戦場で知られる風光明媚の地です。雪が眩い晴天のもと、行商人でしょうか、大きな荷物を背負う男と、数歩先から飼い主を振り返る風情の犬が描かれます。稲を干すための稲架(はざ)の林立が、心地よいアクセントとなって画面を引き締めています。作者の前川千帆は、日本近代を代表する木版画家ですが、はじめ漫画家として出発しました。本作のもとになったスケッチを見ると、実は犬の姿はありません。漫画家の眼差しが、ほのぼのとしたフィクションを演出させたのでしょう。日本創作版画協会に出品された、初期の名品です。
(常設展示室にて3月5日から31日まで展示)
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