文字サイズ
自治体の皆さまへ

篠原先生の「幸福人生のレシピ」

21/34

千葉県大多喜町

「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表を務める篠原鋭一先生が、人生を楽しくするレシピをご紹介します。

■「逃げたらあきまへん。受けて立ちなはれ!」
高視聴率で終わったNHK放映の朝ドラ「らんまん」を見ながら思い出したことがありました。
数年前のことです。亡くなったお父さんのあとを継いで、若くして精密機械製作会社の社長となったTさんが、お父さんの親友であり、経営者であるCさんに悩みを打ち明けています。
「Cさんもご存知の通り、父は絶えず新商品の開発に取り組んでいました。もちろん商品にならなかったり売れなかったりして、失敗したこともありましたが、ヒット商品も数多く世に出しています。実は今度、父の業績を知っている会社から新商品開発の仕事の依頼が来ました。父なら張り切ってその仕事に取り組んだことでしょうが、私には父のような自信がありません」
Tさんの言葉が終わるや否や、Cさんがこう言いました。
「逃げたらあきまへん!受けて立ちなはれ!あんたはんは若い。未知の海へ漕ぎ出す勇気を持たんで、どうしますのや」
大阪人のCさんのひと言が、Tさんの心に響きました。
Cさんが続けます。
「T君、植物分類学者の先駆者として有名な牧野富太郎というお人をご存知ですか?牧野先生は高知の小学校を中退したあと、独学で植物学の研究に励みはったお人です。全国の山野を歩き回って植物を採集し、それを分類して名前をつけたものだけでも一千種類以上もあると聞いてますわ…。
どえらい業績や。こんなお人ですから大学や学界から一目も二目も置かれ、大切にされたと思いますやろ。ところが実は全く逆ですねん。牧野先生はな、学界から白い目で見られ、冷とうされて、貧乏なまま一生を終わらはった……。気の毒やと思います。けれど牧野先生はこう言うてはります。『この分野なら誰にも負けないぞと強い自信を持っていたし、好きなことに熱中して生きていたから、劣等感なんてすっかり忘れてしまいました。それに未知の世界を自分の手で開く喜びがありました!』えらいもんですなあ」
思わずTさんが問い返しました。
「学歴劣等感とか経済的劣等感とか社会的劣等感にさいなまれて、さびしさや悔しさはなかったんですかねえ?」
「えらいのは、そこですがな。我々ならすぐに打ちのめされますわなあ。悔しいと思いますわなあ。でも先生は常に“未知の世界を自分の手で開く喜び”を知っておいでになっていたから、そんなことまったくへっちゃらだったに違いありまへん!さあ、あんたはんも受けて立ちなはれ!苦しみから逃げたらあきまへん!」
Tさん、このCさんの話に励まされたのか、スッキリした表情で帰って行きました。未知の世界を切り開いた人は誰もが、どれほどの苦難に遭遇しても、果敢に受けて立ったに違いありません。

▽篠原鋭一(えいいち)氏
1944年兵庫県生まれ。駒澤大学仏教学部卒業。
千葉県成田市曹洞宗長寿院住職。曹洞宗総合研究センター講師。
同宗千葉県宗務所長、人権啓発相談員等を歴任。
「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表。
公立の小学校・中学校・高等学校を巡り「いのちを見つめる」課外授業を続けている。
「生きている間にお寺へ」と寺院を開放。
「少年院」「拘置所」で特殊詐欺犯罪の結末を説き続けている。

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒107-0052 東京都港区赤坂2丁目9番11号 オリックス赤坂2丁目ビル

市区町村の広報紙をネットやスマホで マイ広報紙

MENU