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篠原先生の「幸福人生のレシピ」

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千葉県大多喜町

「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表を務める篠原鋭一先生が、人生を楽しくするレシピをご紹介します。

■「生命(いのち)を救ったソフトクリーム」
-人生は誰にも代わってもらえない-

今年七八歳になるKおばあちゃんは、今年もローカル線の始発電車に乗って行商にでかけました。手づくりの野菜、味噌、餅(もち)などがぎっしりつまった段ボール箱を四つ、大きな風呂敷に包んで背負っています。両手も荷物でふさがっています。
「もう四十年も行商を続けているんです。私を待っているお客さんがおいでになりますからねえ。
行商を始めたきっかけは、七歳、五歳、三歳、三人の男の子を残して主人が亡くなったことでした。小さな農家でしたが、それでも大黒柱を失ってしまったのですからたちまち生活に困ってしまって……。頼る親類もなく、とうとう三人の子どもを連れて大川に飛び込もうと決めてましてね。最後の日に、何か子どもたちが大喜びするようなものを食べさせてやろうと思い、村に一軒しかない食堂に連れていって、ソフトクリームを注文しました。あのころ、ソフトクリームはめずらしかったんです。みんないつかは食べたいと思っていました。三人とも大喜びでした。『お母ちゃん、ソフトクリームはじめてだね!』長男がそう言うと、次男と三男もうれしそうに答えました。『うん、おいしいねっ!』『おいしい!』『お母ちゃんの分も食べていいよ』あまりにうれしそうに食べている子どもたちを見ていて、私はこれから死ぬんだということをすっかり忘れていました。
やがて、口のまわりや手についたソフトクリームをなめまわしながら、満足した子どもたちが口をそろえて私に言いました。『ああ、おいしかった。お母ちゃん、また連れてきてね!』私は心の中で″ごめんね、もう二度と来られないんだよ“と手を合わせるような気持ちで叫んでいましたが、長男がこんなことを言ったのです。
『お母ちゃん、ぼくたち三人が大人になったらソフトクリームを食べたいだけ食べさせてあげるからね、待っててよ!』このひと言が私を勇気づけました。″そうだ、この子たちには明日がある、未来がある、死なせてはいけない!死んではならない……“行商を始めたのはこんなことがあったからです。休んだことはありません。
近所の人たちから『Kさんも苦労するわねえ』とよく言われましたが、いつも、『私のことです。誰にも代わってもらえません』と答えました。ほんとうにそう思って生きてきましたから……。
おかげさまで、三人の息子たちは独立して家庭を持ちました。私孫が七人もいるんですよ……。」
「私のことです。誰にも代わってもらえません」このひと言はKおばあちゃんの哲学そのものです。

▽篠原鋭一(えいいち)氏
1944年兵庫県生まれ。駒澤大学仏教学部卒業。
千葉県成田市曹洞宗長寿院住職。曹洞宗総合研究センター講師。
同宗千葉県宗務所長、人権啓発相談員等を歴任。
「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表。
公立の小学校・中学校・高等学校を巡り「いのちを見つめる」課外授業を続けている。
「生きている間にお寺へ」と寺院を開放。
「少年院」「拘置所」で特殊詐欺犯罪の結末を説き続けている。

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