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篠原先生の「幸福人生のレシピ」

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千葉県大多喜町

「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表を務める篠原鋭一先生が、人生を楽しくするレシピをご紹介します。

■今日と明日は泣くんじゃないぞ!
交通事故で亡くなったKさん夫妻のお通夜が間もなく始まろうとしているときのことです。控室で開式を待つ私にドアをたたく音がきこえました。
「どうぞお入りください」
入ってきたのは三人の男の子です。
一番背の高い男の子が告げました。
「すみません。ほんの少しの間この部屋を貸してください。ぼくは長男のE夫で高校二年生です。この子が次男で中学一年生、こっちが三男S夫で小学四年生。ぼくたちお葬式をして頂く両親のこどもで三人兄弟です」
「いいよ、私は部屋の隅っこにいるから自由に使いなさい」
長男のE夫君が語ります。
「二人ともよく聞くんだ。今夜のお通夜から明日のお葬式が終わるまで、絶対に泣くんじゃないぞ!涙が出そうになったら、歯を食いしばって耐えるんだ。学校の友だちも来るだろう。先生もおいでになる。お父さんやお母さんの友だちもたくさん来られるにちがいない。みんなが、残されたぼくたちにやさしい声をかけてくださると思う。そのたびに涙が出そうになるだろう。でもな、泣いちゃだめだ。泣いたら、よけいみなさんに心配かけるし、何よりお父さんとお母さんが悲しむんだ。お前たち二人は、長男のぼくが頑張って育てるから心配するんじゃない。ぼくたちは今日から三人で生きて行かなくちゃならないんだ。お父さんとお母さんを送る今日は、くやしいけどぼくたち兄弟の新しい出発の日だ。出発の日に泣いちゃだめなんだ。いいな!」
うつむいて聞いていた三男のS夫君が問いかけます。
「でもぼく、すごく悲しいもん。今でも涙が出るよ。泣かないなんて無理だよ。」
次男のT夫君がつづけます。
「お兄ちゃんは強いから我慢できるけど、ぼく、自信ないよ。泣いたっていいじゃないか!」
二人の目にはもう涙がいっぱいです。長男のE夫君が答えます。
「あのね、お通夜とお葬式が終わったらうんと泣いていい。三人だけになったら大声出して泣こう。それまでは泣くんじゃない。しっかりと立って、ていねいにおじぎをするんだ。来てくださるみなさんに、ぼくたち三人は一緒に強く生きていきますという姿を見てもらうんだ。さあ、時間だ。」
深々と頭を下げて出て行った三人を見送り私も歯を食いしばって式場へ向かいました。後日三人兄弟のたくましい姿を見た参列者の多くが涙を浮かべていたこと、そして三人は約束通り涙を流さなかったことを、ひとづてに聞きました。
あの時“涙を流していいんだよ”と言いかけて飲み込みました。新しい出発を決意した三人の思いを、外から乱してはなりませんから……。
三人兄弟は、結束して力強く生きていくにちがいありません。

▽篠原鋭一(えいいち)氏
1944年兵庫県生まれ。駒澤大学仏教学部卒業。
千葉県成田市曹洞宗長寿院住職。曹洞宗総合研究センター講師。
同宗千葉県宗務所長、人権啓発相談員等を歴任。
「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表。
公立の小学校・中学校・高等学校を巡り「いのちを見つめる」課外授業を続けている。
「生きている間にお寺へ」と寺院を開放。
「少年院」「拘置所」で特殊詐欺犯罪の結末を説き続けている。

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