「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表を務める篠原鋭一先生が、人生のホットな生き方のヒントをご紹介します
『空が青いんだから何とかなる』
一か月前のこと、Tさんの家が火事で全焼したのです。放火の疑いもあるとのことですが、原因は不明。
Tさんが語りました。
「妻も子供たちも、立ち上がれないほど沈み込んでいるのに、八十七歳になる母がびっくりするほど明るいんです。
私はつい
『無一文になってしまった』
と泣きごとを言った時、母が笑って言いました。
『みんな火傷一つせずに無事でよかったねえ』
すると高校三年生の息子が怒るように言ったのです。
『おばあちゃん、のんきなこと言わないでよ。おれ、住むところ無くなったんだよ!』
母の返答は……
『あんた生きとるでしょう!生きとれば、人間は立ち直ることができるよ。おばあちゃんは戦争のとき何度も死にかけたよ。三度も家を丸焼けにされたよ。無一文にもなった。……でもこうして生きている。戦火の中を逃げ回ったことを思えば、大したことはないよ。家はまた建てればいいでしょう。何とかなる!』
娘が続けて泣き声で問いました。
『何とかなる?どう何とかなるの?』
その時の母の答えにびっくりしたのです。
『だってねえ、空が青いんだから何とかなるのよ!』
母が続けました。
『みんな空を見なさいよ。あおいでしょ。きれいでしょ。空は逃げないよ。お陽さまも逃げないよ。夜、月も星もみんな逃げないよ。空が青いかぎり生きていける。どうにかなるんだよ。空が青いんだから逃げないで生きとれば何とかなる!』
私、母の言葉に何だかジーンときて、思わず涙をこぼしました。歳を取った母が、精いっぱいの言葉を使って、家族を励ましているのです。
〝空が青いんだから何とかなる〟なんて、何だかよくわからないことばでしたが、ふと気持ちが楽になったのです。私だけではありません。泣いてばかりいた妻が、母に告げたのです。
『お母さん、もう一度言ってみてください。何だか私気持ちがスーっとしました。お母さん、お願いします。もう一度!』
母が歌うように言いました。
『空が青いんだから何とかなる!空が青いんだから何とかなる!』
やがて家族みんなで合唱しました。
『空が青いんだから何とかなる!』
今では、辛くなったらみんなで声を出すようになりました。
『空が青いんだから何とかなる!』は、わが家の家訓になりました。」
『空が青いんだから何とかなる!』の一言「人生の杖ことば」としていただきます。
篠原 鋭一(えいいち)氏
1944年兵庫県生まれ。駒澤大学仏教学部卒業。
千葉県成田市曹洞宗長寿院住職。曹洞宗総合研究センター講師。
同宗千葉県宗務所長、人権啓発相談員等を歴任。
「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表。
公立の小学校・中学校・高等学校を巡り「いのちを見つめる」課外授業を続けている。
「生きている間にお寺へ」と寺院を開放。
「少年院」「拘置所」で特殊詐欺犯罪の結末を説き続けている。
篠原氏は令和6年1月27日(土)に町農村環境改善センターで「こころの健康講演会」の講師を務める。
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