今回は最近のもの忘れ外来でのケースをご紹介しましょう。
75歳のAさんは、70歳代前半でアルツハイマー型認知症の診断を受け、抗認知症薬の内服をしています。また、10年以上前から夜間に眠れないという訴えがあって、睡眠導入剤も内服していました。認知症の症状、すなわちもの忘れや周囲の状況がわからなくなる見当識障害、理解力・判断力の低下などは徐々に進行し、介護保険でデイサービスやショートステイを利用していました。3ヶ月ほど前から夜間不眠が悪化し、夜中に独り言を言ったり、大きな声で叫んだりするようになったそうです。こうしたときに、もらっていた睡眠導入剤を内服させると症状が悪化し、さらに混乱して大暴れすることもあったようです。また日中も、怒りっぽくなり、些細なことで攻撃的になったりしていたようです。こまったご家族が本人を連れて、受診されました。
こうしたケースで重要なのは、身体的な病気で精神症状が生じている症状精神病を見落とさないことです。脳に何か異常が生じていないかをチェックするため、頭部CTを撮影し、身体的な異常を調べるために採血検査を行います。頭部CTでは、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害は認められず、アルツハイマー型認知症に矛盾しない所見のみでした。採血検査で症状精神病も否定されました。次に考えるのは、薬の副作用になります。
現在、日本で市販されている認知症の内服薬は4種類で、この方が内服していたのはアセチルコリンエステラーゼ阻害剤のドネペジルでした。ドネペジルは、アルツハイマー型認知症で減少してしまったアセチルコリンという物質を脳内に増やす作用があります。アセチルコリンが脳内に増えると脳が活性化するので、集中力が上がったり、認知機能障害が改善することもあるのです。しかし、脳全体の活動を活発化するため、怒りっぽくなったり、幻覚や妄想がある場合には幻覚・妄想も活性化してしまいます。Aさんは、ドネペジルの副作用で怒りっぽくなったりしていることが疑われました。
さらに、せん妄状態の合併が疑われました。せん妄状態では、特に夕方から夜間にかけて、不眠や幻覚、妄想、興奮状態を生じることがあります。いわゆるベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤で症状が悪化することが特徴です。この方が内服していた睡眠導入剤もレンドルミンというベンゾジアゼピン系の薬剤でした。ドネペジルやレンドルミンによる副作用が疑われたので、中止してもらうことにしました。
ドネペジルは急にやめても大丈夫なのですが、レンドルミンなどの睡眠導入剤では急にやめると離脱症状が出てくる可能性があります。ゆっくりと中止してもらいました。さらに夜間不眠を改善するような薬を調整することで、精神症状は改善し、認知機能障害にも改善が認められました。
次回は今回利用した薬物療法についてお話ししましょう。
■上野先生から認知症について学ぶ学習会を開催します。
ぜひご参加ください。
日時:7月17日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター
問い合わせ(申込先):福祉課包括支援センター
【電話】46-2116
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