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長南町認知症サポート医〔上野秀樹先生〕の認知症見立て塾[第38回]

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千葉県長南町

今月も私がもの忘れ外来の診療で注意しているポイントをお話ししましょう。
これからの人生に「希望」が持てるような診療をすることを心がけています。これは私自身の経験に基づいています。直腸がんの手術と手術後の排泄障害の体験です。今から7年前の年末、排泄後にトイレットペーパーに少量の鮮血がついているのに気づきました。2回あったので、これはおかしいと思い、便潜血の検査の後、下部消化管内視鏡の検査を受けることになりました。そうしたら、ステージ1の直腸がんが見つかったのです。残念ながら、内視鏡による切除ができる状態ではなかったので、腹腔鏡による手術を受けることになりました。
私は大学卒業後ずっと精神科の臨床に従事しています。精神科の診療では、新しい治療薬はたくさん開発されていますが、診療のやり方自体は私が大学を卒業した頃とあまり変わっていません。がんの治療は違います。私が学生時代に学んだ古い知識は一新されていました。私は最先端の医療を体験して、華々しく復帰しようと考えていました。腹腔鏡による切除手術が終わってみるとおへその横に小さな袋がついていました。がんが肛門に近いところにあったために、一時的に小腸に人工肛門が設置されていたのです。肛門を閉鎖してしまう場合には、大腸に人工肛門を設置しますが、一時的な場合には、人工肛門を閉鎖しやすい小腸に設置するのです。毎日一回、人工肛門の装具を交換します。当初1時間以上時間がかかっていたのが、WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)の外来指導を数回受け、適切な装具を紹介してもらうことで、15分程度でできるようになりました。私にとって、WOCナースはまさに神様の様な存在でした。肛門からの排泄はなく、小腸ストーマから出てくるのはいわゆる便臭のない液体の排泄物でした。4ヶ月間にわたった小腸人工肛門生活はそれほど大変ではありませんでした。小腸人工肛門を閉鎖すると、激しい排泄障害が始まりました。便をためておく機能を持つ直腸が完全になくなっているので、便塊が肛門近くに流れてくると激しい便意を感じて、排泄してしまうのです。人工肛門閉鎖後1ヶ月くらいは一日に40回以上の排便があり、トイレから離れられない生活を送りました。3年間は日常生活でも紙パンツの利用が欠かせませんでしたが、こうした排泄障害も徐々に改善してきています。私がこの体験の中で感じたのは、希望の重要性でした。
術後に疼痛管理がうまくいかず、激痛の中で動けなかったときも、入院中に麻痺性の腸閉塞になったときも、さらに現在も遷延している排泄障害のなかでも、「これから少しでもよくなる可能性がある」という希望が私を支えてくれたのです。
認知症でも同じだと思っています。私たちの社会は、いわゆる健常者、五体満足で、認知機能障害もない人向けにつくられているので、認知機能障害が出てきてしまうと、生活上いろいろな支障が生じてきます。大変な状況の中、支えてくれるのはやはり「希望」です。私はもの忘れ外来の診療の中で、受診された方に少しでも「希望」を持っていただけるようにさまざまな工夫をしています。具体的には、少しでも改善の可能性がある部分を見つけ出し、詳しく情報を提供することです。同時に本人が、改善したいと思っている部分を見つけ出すことも重要になります。
パンドラの箱の寓話があります。パンドラがゼウスから送られた箱を開けたところ、ありとあらゆる災厄が飛び出してきて、最後に箱の底をのぞいたら希望が残っていたというお話です。さまざまに解釈されているお話ですが、私はこんなふうに考えています。どんなにつらい状況、大変な状況の中でも人は希望を見いだすことができるのだと。

■上野先生を講師に迎えた「認知症学習会」を毎月開催しています。ぜひご参加ください。
日時:9月18日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター

問い合わせ(申込先):福祉課 包括支援センター
【電話】46-2116

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