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特集 未来に承継する、技術と想い

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和歌山県紀の川市

みなさんは事業承継という言葉を知っていますか。事業承継とは、会社や事業を後継者に引き継ぐことです。
今回の特集では、家族一丸となって、和歌山の地場産業である「たわし」の製造に励む北山さん家族に話を伺いました。先代の技術や想いを後世に受け継いでいく中には、どんな物語があるのでしょうか。

■先代から受け継ぎ54年
紀の川市貴志川町の住宅街にある、たわしの製造工場。作業を行うのは、父からの教えを受け継ぎ、たわしを作り続けて54年になる北山正積(まさつむ)さん(71)です。
正積さんの父は、兄弟3人で大手たわしメーカーの製造を請け負う工場を経営していました。昼夜問わず技術の向上に励んでいましたが、40歳の時に体調を崩してしまいます。当時、正積さんは17歳で大阪に居住し、学生生活を送っていましたが、実家に戻り、父が経営する工場を受け継ぐことを決意します。
父から技術を学びながら、たわしの製造を開始。
ひたむきに技術を磨き、工場の経営も軌道に乗ってきた矢先、昭和48年のオイルショックのあおりを受け、景気が一変します。正積さんの工場も大打撃を受けてしまい、客先であったメーカーの事業規模が縮小し、受注量が大幅に減少したことで、共に製造を行っていた内職や職人の数も減少していきました。そのような苦しい状況でも、正積さんは「いかに高品質のたわしを作るか、後世に技術を伝えていくにはどうしたらよいか」と思い悩みながら、地場産業であるたわしの製造を守るため、技術を磨き続けました。
「たわしが次の世代に受け継がれるように、時代に合ったものを作っていきたい」という新たな夢が大きくなり始めた正積さん。自分のアイデアを形にした、こだわりのたわしを多くの人に使ってもらい、魅力を伝えていきたいという気持ちを胸に、平成25年に「北山正積商店」を法人化し、新たな一歩を歩み始めました。

▽棕櫚(しゅろ)たわしができるまで
棕櫚たわし…ヤシ科の樹木である棕櫚から取れる繊維が原材料。棕櫚ならではの独特の柔らかさと、しなやかさで、食器や野菜、衣料品にも使用できる万能なたわしです。

(1)繊維の準備
厳選された無農薬の天然素材の棕櫚を使用。均等量が断裁されるように調整しながら、ゴムで束ねます。

(2)断裁
束ねた繊維を断裁機にセットし、約4cmのサイズに断裁します。

(3)棒巻き
針金の間に繊維を均等に隙間なく詰め、ハンドルを回して針金を巻き、最後にしっかりと巻き込みます。

(4)仕上げ
棒巻きの後、繊維の長さを整えます。Uの字に折り曲げて針金を止め、細部を整えれば完成。

■職人の技術と経験
北山正積商店では、たわし作りの全ての工程を手作業で行っています。品質の高いたわしを作る上で、繊維の選別や棒巻きの作業など、長年積み重ねてきた経験に裏打ちされた高い技術力が必要です。それぞれのたわしの用途に適した繊維の硬さや太さなどを的確に見極め、良いものだけを選別していきます。「手間と時間はかかるが、良いものを作る上で欠かせない作業です」と正積さんは話します。
また、棒巻きの作業では、手先の感覚が大切です。中でも難しいのは、針金の巻き加減。巻きすぎると針金が切れてしまい、緩ければ繊維が抜けやすくなるため、手の感覚を頼りに針金が切れる寸前まで巻きます。「何度も巻いて経験を積み、手の感覚を覚えていく。職人の技術が詰まっているからこそ、技術の習得が難しい」と正積さんは言います。
たわし作りの技術を持った職人の数は全国的に減少しており、地場産業であるたわしの製造を絶やさないためには、後継者に技術を承継していくことが必要です。先代から受け継がれた技術と想いを途絶さないように、一つ一つ丁寧に、たわしを作り続けてきた正積さん。その工場には2人の娘の姿がありました。
長女のひとみさんは「工場で手伝いをしている内に、父の跡継ぎがいないことを考えるようになった」と振り返ります。そして「高品質のたわしを作る技術が父の代で途絶えてしまうのは、もったいないと思った。面と向かって継ぐとは伝えていないけれど、いつしか父の技術を受け継ぐことを考えていた」と続けます。
次女の亜紀(あき)さんは「父が作るたわしは、すごくきれいで密度が高い。こんなにも誇れるものを、もっと世間に広めていきたい」と工場での作業を手伝うようになりました。父が長年培ってきた高い技術と、そこから生み出される高品質なたわしに魅了され、姉妹2人で協力し、事業を承継することを決意しました。
現在、たわし職人の道を歩んでいるひとみさんは、製造工程の一部を任され、正積さんから技術を受け継ぐため、日々鍛錬を重ねています。「実際に作ってみて難しさを痛感するからこそ、父の偉大さが分かる」と改めて正積さんの技術の高さを感じるというひとみさん。正積さんは「職人には、ある程度職人向きの気質が必要。根気がある人、集中力がある人が向いている。僕の目では娘はできそうだと感じた」と期待を寄せています。
2人は技術を学びつつ、時代に合わせた挑戦も始めています。「私たち姉妹が実際に使用して、女性目線で便利だと思うたわしを作れるのが、私たちの強み」と話す亜紀さん。たわしの魅力を伝えるために、全国の百貨店などで精力的に対面販売を行っています。
また、商店には日本だけではなく、海外からの問い合わせも増えてきています。「SNSの活用やホームページをしっかりと作ることで、たわしの魅力が広がっている。僕にはできないが、娘がしてくれるので助かる」と正積さん。亜紀さんはインターネットを活用して情報を発信し、こだわりのたわしの魅力を多くの人に広く伝えています。

■技術と想いを未来へ
「自分が引退した後も、僕の技術を承継し、姉妹一緒に頑張って良いものを作っていってほしい。そのために技術を伝授していく。時代の変化に挑みながら、将来的には2人が伝統を絶やさないようにやっていってもらいたい」と娘2人に想いを託す正積さん。
先代から受け継いできた技術と想いを後世に伝えていくため、家族一丸となり、親から子、未来へ、技術と想いをつなげていきます。

▽事業承継・引き継ぎを支援します
人口減少や後継者不足などで、事業の廃業を選択せざるを得ないケースが少なくありません。事業承継は、親から子、代表から従業員など、さまざまなパターンがあります。和歌山県事業承継・引継ぎ支援センターでは、「後継者がいない」「誰かに引き継いでもらいたい」「引き継ぎたいが、どのような手続きが必要か」など、幅広い相談を受け付けています。気軽に相談ください。

問い合わせ:和歌山県事業承継・引継ぎ支援センター
【電話】073-499-5221

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