■interview1-医療の現場から-
孤立させない支援を目指して
岩出こころの診療所院長
眞城耕志先生
Koshi Shinjyo
Profile:平成29年5月に「岩出こころの診療所」を開院し、以降、地域の人に寄り添った医療を提供。
●自分を責めないで
若者や働き盛りの人の自殺が増えてきています。要因としては、アルコール・ギャンブル・薬物依存、摂食障害などの疾病や借金、離婚、会社での不和、就職難など幅広くさまざまな要因が考えられますが、最終的に行きつくのは「社会的な孤立」です。複数の要因が複雑・複合的に絡みあい、最終的には孤立し、自殺を選択せざるを得ない状況になってしまいます。「自分なんて」と思ってしまい、孤立を感じ、この先、自分の人生が真っ暗であると感じて、自ら命を絶ってしまうことがあります。
相談を受ける上でなにより大切にしているのは、相手に孤立を感じさせないために、相手のつらく苦しい気持ちを否定せず全て受け入れ、受け止めること。その上で信頼関係を構築していくことです。また、社会資源を活用し、一歩ずつ人との関わりを増やしていくことも大切です。
うつ病などの精神疾患を抱える人については、病気であるという認識を持ってもらうことがまず大事です。休息や投薬が必要であるということを理解してもらえるよう治療を進めています。「自分のせいで」と自責の念を持っている人が多いので、そうではなく、病気であるということを知ることで少しだけでも前を向き、顔をあげてもらいたいです。あなたは一人じゃない
自殺に追い込まれないためには、自分の居場所を複数持っておくことが大切です。どこかに頼れる場所を作っておくことで、心の拠り所となり、生活の安心感へとつながります。今後の課題は、社会と断絶している人をいかにして支援につなげるかであると思っています。保健所や市役所などの関係機関との協力体制をより強固にし、拾い上げられる命を一つでも増やしたいです。
(※)希死念慮を持っている人は誰も信用できない状況にあります。まるで光が見えず、出口の分からないトンネルにいるような感覚に陥っていると考えています。例え一人では出口を見つけられなくても、誰かと一緒に探せば、右往左往しながらでも出口を見つけることができることを知ってほしいです。誰しも、決して一人じゃない。どこかに必ず信頼できる人がいます。その人を頼ってみてください。
※希死念慮(きしねんりょ)…死にたいと思っている状態
▽自殺の危機経路
自殺は、平均すると4つの要因が複合的に連鎖して起きていると考えられています。
図の説明:
・印の大きさは要因の発生頻度を表しています。
・印が大きいほど、自殺者にその要因が抱えられていた頻度が高く、矢印の太さは、要因と要因の連鎖の因果関係の強さを表しています。自殺の直接的な要因では「うつ状態」が最も大きくなっていますが、「うつ状態」になるまでには複数の要因が存在し、連鎖しています。
自殺実態1000人調査より作成(特定非営利活動法人自殺対策支援センターライフリンク)
■interview2-相談員の立場から-
命を天秤にかけることはできない
紀の川市いのち支える自殺対策協議会
副会長
租和佐由里さん
Sayuri Sowa
Profile:「いのちの電話相談員」を約20年間経験。現在は一人暮らしの高齢者への見守りなどに精力的に参加。
●誰かにSOSを出して
私自身も家庭や仕事の負担から気が滅入ってしまい、もがいていた時期がありました。そんな時に偶然テレビで、紹介されていたのが心理学。すぐに学び始め、勉強を進める中で、相手の気持ちに寄り添い、理解することで、自分自身の気持ちが軽くなったように感じました。それらの経験を生かし、約20年間いのちの電話相談員としてさまざまな人の悩みや相談を聴いて、「命」に向き合ってきました。
自殺を防ぐために一番大切に感じることは、悩みをためこまずに誰かに相談し、SOSを出すということ。相談員として話を聴く上では、相手の話を受け止め、悩んでいる気持ちを引き出すことを意識していました。決して直接的なアドバイスをするのではなく、いくつかの選択肢を提示し、最終的には本人が決定できるよう導いてきました。
自身の思いを吐き出して、自己決定することが出来れば、生きる活力を見いだし、自殺予防につなげることができると思っています。「命を天秤にかけることはできません」。なにより大切な命を守ることができる社会の構築が必要です。
●地域の見守りを通じて
高齢者の一人暮らし世帯が増加する中で、孤立から自殺へとつながってしまう場合が多く見られます。最近は、地域の人たちの見守りを実施するため、電話訪問などによる高齢者の見守り活動に励んでいます。一人暮らしの人たちは、社会との関係を断ってしまっている人も多く、その中でもみなさんは、日常生活における不安や悩みを抱えています。相談への一歩を踏み出せずにいる人たちの後押しができるよう、日々の見守りを行っています。
地域における関係性が希薄になりつつある中でも、地域でつながりを持ち、ともに支え合うことがより大切になってきているように感じています。
▽自殺の前兆のサイン~ちょっとした変化を見つけてください~
《いつもと違う行動がみられる》
・急にパチンコやギャンブルにのめり込む
・真面目な人が無断欠勤したりする
・部屋にひきこもる、口数が極端に減る
・周囲への関心がなくなる、新聞やテレビを見なくなる
・深酒が増える、逆にお酒がまずいと言う
・身だしなみに気をつかわなくなる
・一人でいるのを寂しがるようになる
・少しのことで不機嫌になって怒りっぽくなる
・周囲の音に敏感になる
・大切なものを人にあげたり、整理する など
《話す言葉が変わってくる》
・口癖のような訴え「死にたい、死にたい」
・自分を責めるような訴え「生きていても迷惑をかけるばかりだ」
・絶望的な訴え「将来に希望が持てない」「生きている意味がない」など
《体調の不良がみられる》
・じっとしておれず焦りが強い
・頭が重い、ひどい肩こり
・寝つきが悪い、何度も目が覚める、朝早くから目が覚める
・疲労感が強く、特に朝に体調が悪い など
社団法人 大阪精神科診療所協会より抜粋
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