市の南部地区には、住宅地に囲まれ、ぽっかりと島のように浮かぶ深い森が広がっています。これが、「デーノタメ遺跡」の森です。この遺跡は、今から約5,000年前の縄文時代中期に人が住み始め、1,500年間という長期にわたってムラが営まれていました。考古学的に高く評価されてきたこの遺跡は、今、国の史跡指定に向けて準備が進められています。この特集では、デーノタメ遺跡の「今」と市民の活動や声をご紹介します。
■デーノタメ遺跡の価値と現在地
◇遺跡の特色と価値
デーノタメ遺跡は、市内の下石戸下に所在する縄文時代中期~後期の集落遺跡です。その特色は、
(1)縄文時代の集落が「関東最大級」であること
(2)1,500年も継続していたこと
(3)台地上の集落と低地遺跡がセットで残ること
(4)縄文人の植物利用や漆工芸の実態がリアルにわかること
です。
縄文時代中期は縄文文化が花開いた時期で、これを象徴するように「環状集落」という、ドーナツ形の大規模な集落が形成されました。現在、開発によってその多くが失われる中、典型的な「環状集落」の全体が残るデーノタメ遺跡は、今や貴重な存在なのです。
また、デーノタメ遺跡は「タイムカプセル」のように情報の詰まった低地遺跡を伴っています。通常では腐ってしまう当時の花粉、クリやクルミなどの種実、木材、漆製品などが地下水により真空パックされ、その姿をとどめているのです。
このため、当時の植生や縄文人が食料としていた植物とその変化などを、一つの遺跡で理解することができます。これが、この遺跡が高く評価されてきた大きな理由です。
◇「史跡相当の遺跡」に登載
10月27日、文化庁は「国指定史跡」(※)に相当する価値ある遺跡のリストを発表しました。重要な埋蔵文化財を、適切な保護につなげることが目的です。全国で42件がリストアップされる中、デーノタメ遺跡は県内で唯一リストに登載されました。
また、今年6月の定例市議会では、遺跡の国指定に関連する補正予算が全会一致で可決されました。これを受け、市では地権者への説明と、国指定に向けた国・県との協議に入っています。来年2月には、文部科学大臣に意見具申(申請)を行う予定です。その後、国の文化審議会で国指定にふさわしいと答申され、官報に告示されると、正式に国指定史跡となるのです。
デーノタメ遺跡を国指定史跡として保存し、活用していくためには、市民の皆さんのご理解とご協力が何よりも必要です。
※国指定史跡…日本の歴史を正しく理解するうえで欠かせない学術的価値をもつ重要なものを史跡として指定し保存を図って後世に引き継ぐ制度です。有名なものは、青森県の「三内丸山遺跡」(縄文時代)、佐賀県の「吉野ヶ里遺跡」(弥生時代)などがあります。
■研究者が語る!デーノタメ遺跡の価値と魅力
◇佐々木由香さん〔金沢大学特任准教授(植物考古学・環境考古学)〕
全国的に水場の利用が不明な縄文時代中期、そして後期のムラが水場とセットで明らかになった非常に珍しい遺跡です。
豊富な生の木の実やベリーだけでなく、土器圧痕などから、当時の食料をはじめとするさまざまな有用な植物がムラの周りに継続的に存在し、利用していたことを実証できる点が魅力です。
◇阿部芳郎さん〔明治大学教授(縄文時代の社会構造と生業・型式学)〕
デーノタメ遺跡は縄文時代中期から後期のムラです。この時期には寒冷化が起こりますが、デーノタメ遺跡は集落を隣に移動させただけで、人々の暮らしは継続しています。
どのような知恵と技術で寒冷化を乗り切ったのか、そのナゾを解き明かすことは、私たちの未来を考える時の重要なヒントになるに違いありません。
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