朝霞地区医師会/張文誠(ちゃんむんそん)
夜中に何の前触れもなく、突然下腹部に差し込むような強い痛みが出現。脂汗が出て吐き気を催し、トイレに駆け込んだものの、すぐには便が出ずに、ようやく便が出たと思ったら、その後に下痢が頻回となり、トイレに籠る状態となった。何回か下痢をするうちに、しばらくしてから、いちごジャムのような血便がみられるようになった。その後も下腹部が痛くなったり落ち着いたりを繰り返している。このような経験をされた方は、結構いらっしゃるのではないでしょうか?
こうした症状の流れは「虚血性大腸炎」という病気の典型的な症状の経過です。症状の経過を聞くだけで、比較的容易に診断に至る、頻度の高い病気のうちの一つです。ほとんどが一過性のもので、大抵は数日のうちに症状が改善し、病状が軽快します。
この病気は、腸に強い攣縮(れんしゅく)が起こることで、腸の粘膜への血流が一時的に低下することが原因です。その後に痙攣様の発作が解除されても、腸がむくんだり、びらんや潰瘍などの粘膜傷害が生じることで、下痢や血便がみられるようになります。文字通り、血液の流れが悪くなる「虚血」ということですね。
発作が強く生じると、それに随伴して血圧が低下したり徐脈になるなど、循環動態に影響が生じることがあり、それが冷や汗や脂汗、吐き気といった症状につながっていくのです。ときに意識が朦朧としてしまうこともあります。これは迷走神経反射と呼ばれる反応です。
「虚血性大腸炎」の原因としては、血管側の問題と、腸側の問題が挙げられ、特に腸側の要因が重要です。血管側の要因から、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、動脈硬化を引き起こすような基礎疾患をもつ方に発症しやすいとされています。また時期として、脱水が起こりやすい夏場や、寒さで血管が収縮しやすい冬場は、特に注意が必要です。一方、腸側の問題で発症の引き金となりやすいのが便秘です。便秘に対し、腸を強制的に動かす「刺激性下剤」を服用すると、腸が強く収縮して血流障害が生じるきっかけとなったり、また脂っこいものや刺激物を食べ過ぎてしまうことも、発症の誘因となります。
虚血性大腸炎は便秘しがちな高齢の女性に多いとされており、こうした理由を考えると合点が行くと思いますが、決して高齢の女性だけでなく、若い女性の方にも、便秘などをきっかけに発症することがよくあります。
治療は腸の安静を保つことが優先されます。大半は通院での治療が可能ですが、病状が強ければ入院した上で、腸に刺激を与えないようにするために絶食として点滴治療を行います。通院の場合は、脂っこい食事や刺激物、アルコールは避け、極力消化の良い食事を行うことが大切です。また、精神的な負担も腸の動きに刺激を与えることから、ゆったりと過ごし安静を保つことを意識する必要があります。通常は、治療は短期間で終わり、とくに後遺症を残すこともありませんが、この病気は再発しやすいという特徴があります。4人に1人ぐらいの割合で再発するといわれており、その再発を避けるためにも、便秘や生活習慣病のコントロールが重要とされています。
上記のような特徴的な症状を呈することから、診断は比較的容易です。診断を確実にするために大腸カメラを行うことは有用ですが、発症してからすぐの急性期に大腸カメラを行うと、検査時の苦痛が強く、また病状の悪化を招くリスクもあるため、慎重に判断すべきです。状態が落ち着いた時点で、癌をはじめとする大腸腫瘍などの存在を否定する意味で、念のためカメラの検査を考慮することは検討してよいと思います。
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