朝霞地区医師会/進藤直久(しんどうなおひさ)
■「心不全」とは
心臓が全身に十分な血液を送り出せなくなる状態を指します。心臓は体のポンプとして機能し、酸素や栄養を含む血液を全身に送り届ける役割を果たしています。しかし、心不全になると、このポンプ機能が低下し、体の各部位に必要な血液が届かなくなります。
■心不全の原因
心不全の原因はいろいろですが、主な原因としては以下のようなものがあります。
冠動脈疾患:心臓の筋肉に酸素を供給する冠動脈が狭くなったり詰まったりすることで、心筋梗塞(しんきんこうそく)が発生し心臓の機能が低下します。
高血圧:長期間にわたる高血圧は心臓に負担をかけ、心不全を引き起こす可能性があります。
心筋症:心臓の筋肉自体に異常が生じる病気で、心臓の収縮力が低下します。
弁膜症:心臓の弁が正常に機能しないことで、血液の流れが妨げられ、心不全を引き起こします。
不整脈:心臓のリズムが乱れることで、効率的に血液を送り出せなくなります。
■心不全の症状
心不全の症状は、心臓がどの程度機能を失っているかによって異なります。一般的な症状には以下のようなものがあります。
息切れ:特に運動時や横になったときに息切れが生じます。
むくみ:足や足首、腹部にむくみが見られます。
疲労感:日常的な活動でも疲れやすくなります。
咳や喘鳴(ぜんめい):肺に液体がたまることで、咳や喘鳴(呼吸時に、ゼーゼー・ヒューヒューと音がすること)が生じることがあります。
体重増加:体内に水分がたまることで、急激な体重増加が見られることがあります。
■心不全の診断
心不全の診断には、医師が患者の症状や病歴を詳しく聞き取り、身体検査を行います。さらに、以下のような検査が行われることがあります。
血液検査:心臓の機能を評価するための特定のマーカー(物質)の値を測定します。
心電図検査:心臓の電気的活動を記録し、不整脈や心筋梗塞の兆候を確認します。
心エコー検査:心臓の構造や機能を画像で確認します。
胸部X線検査:心臓の大きさや形、肺の状態を確認します。
■心不全の治療
心不全の治療は、原因や症状の重さによって異なります。一般的な治療法には以下のようなものがあります。
薬物療法:利尿剤、ACE阻そ害薬(血圧を下げる薬)などの血管拡張薬、心拍数や心臓収縮を抑制するベータ遮断薬などが使用されてきました。最近では糖尿病薬の一種であるSGLT2阻害薬(血糖値を下げる薬)も有効であることがわかってきました。これらの薬は心臓の負担を軽減し、症状を改善します。
生活習慣の改善:塩分の摂取を制限し、適度な運動を行うことが推奨されます。また、禁煙やアルコールの制限も重要です。
手術:重症の場合、冠動脈バイパス手術や心臓弁の修復・置換手術が行われることがあります。
デバイス治療:ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)などの医療機器(デバイス)が使用されることがあります。
■心不全の予防と管理
心不全の予防には、健康的な生活習慣を維持することが重要です。定期的な運動、バランスの取れた食事、ストレスの管理、定期的な健康チェックが推奨されます。また、高血圧や糖尿病、脂質異常症などをお持ちの方は、これらを適切に管理することも重要です。早期発見が大事ですから、前述したような症状が現れた場合は、早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
心不全は一度発症すると完全に治癒することは難しいため、適切な管理が重要です。処方されたお薬をきちんと服用することに加えて、水分制限や塩分制限などが必要になってくることが多いです。定期的な通院はもちろんですが、ご家庭でできる血圧・脈拍測定や体重測定を毎日行い、急激な変化が生じた場合には、症状がはっきりしなくてもかかりつけの医師に早めに相談するようにしましょう。
問合せ:朝霞地区医師会
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