■ピロリ菌と胃がんについて
胃の中は胃酸という強力な酸が出ていて、通常、細菌は生息することができませんが、ピロリ菌はタンパク質を分解してアンモニアというアルカリ性の物質を作ることができるため、自分の周りの胃酸を中和することで胃の中に住みつくことができるのです。
ピロリ菌は胃に起こるさまざまな病気の原因となることがわかっています。
例えば、炎症を起こすので慢性的な胃炎の原因となります。胃の出口(ピロルスといいます。ピロリという名前はここから来ています)に住みついて炎症を起こし、少しずつ入口の方に広がっていきます。長い経過で炎症が起こると、胃の粘膜が薄くなる(萎縮する)ため、下の血管などが透けて見えます。これを萎縮性胃炎と言います。慢性的な胃の痛み、胃もたれなどの原因にもなります。
炎症が強く起こると粘膜が壊れ、胃の壁に穴があくことがあります。これを胃潰瘍(かいよう)と言います。胃潰瘍の原因はピロリ菌以外にもありますが、ピロリ菌の感染があると胃潰瘍のリスクが5倍になることがわかっています。もう一つの原因として代表的なものは痛み止めの薬で、こちらも胃潰瘍のリスクを5倍にします。ピロリ菌の感染と痛み止めの内服の両方が合わさると、胃潰瘍のリスクが9倍になることが知られています。
ピロリ菌が原因で起こる大変な病気としては、胃がんがあります。いろいろなデータがありますが、胃がんの少なくとも90%以上はピロリ菌の感染に関連していると言われています。がんは細胞の設計図となる物質(遺伝子)の異常により発生しますが、ピロリ菌による胃粘膜の慢性的な炎症(ピロリ胃炎)が一部の遺伝子の異常を引き起こし、胃がんの発生の原因となることがわかっています。ピロリ菌が胃の中にいるとだんだん胃がんのリスクが高くなり、ピロリ菌を取り除く(除菌する)と胃がんのリスクはだんだん低くなるため、ピロリ菌がいる人はできるだけ早く除菌をする方がいいです。
ピロリ菌の除菌は強力な胃薬と、抗生物質2種類の内服で行います(1次除菌)。1週間の内服で、ほぼ90%程度除菌できます。除菌に失敗した場合でも、健康保険ではもう1回薬を変えて除菌をすることができます(2次除菌)。2次除菌では95%の方が除菌に成功するので、合わせれば99%以上の方が除菌できると言われています。
ピロリ菌はどこから体の中に入ってくるか、実は今でもよくわかっていません。血液検査をすることで、ピロリ菌に感染しているかどうかを検査することができます。血液のデータを使った感染している人の割合では、12歳位までにほとんどの人が感染することがわかっています。また、成人以降に感染が起こることもありますが、非常に少ないことがわかっています。さらに、お母さんがピロリ菌を持っている場合には子どもへ感染する割合が高いというデータがあり、お父さんから子どもへはほとんど感染が起こらないようです。
ピロリ菌の感染がある人は、なるべく早く除菌することで胃がんのリスクを下げることができます。胃がんは予防のできる、数少ないがんの一つです。感染の可能性のある人(特にいつも胃が痛い、家族に胃がんの方がいる、などの人)は、検査を受けて(健康保険での検査には上部内視鏡(胃カメラ)を受けることが必要になります)、見つかった場合は除菌をおすすめします。
胃がんは、早期に発見できれば内視鏡を使った治療でほとんど治ります。定期的に胃カメラを受けてくださいね。
朝霞地区医師会 大島 敬(おおしまたかし)
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