■認知症と新薬
脳に関連する病気の中で、記憶、見当識、判断、理解などの能力で構成される認知機能が低下してしまうのが高齢者に多い認知症で、その代表的な病気がアルツハイマー型認知症です。
認知症になると家事、買い物、料理などの生活活動や社会での仕事などに支障を来し、趣味や周囲への関心が失われ、自分の感情をうまく相手に伝えられなくなります。真実でないことを真実と確信する妄想や、他者には見えないものが見える幻覚、不眠、不安、恐怖などの精神症状が見られることもあります。
また、目的もなく歩き回る徘徊(はいかい)や、理由もない興奮や相手への攻撃、その場に適さない異常な行動をとることもしばしばあります。
さらに、摂食、排せつ、入浴、着替えなどの自分の身の回りのこともできなくなり、周囲の人の介護なしに生活することが困難となります。時に、介護者に反抗して大きな負担を強いることがあります。
認知症は脳の細胞がアミロイドβ(ベータ)タンパクにより破壊されることで、神経の働きを促す物質(神経伝達物質)の機能が失われ、認知機能が障害されることで発症することが分かっています。
そこで、神経伝達物質の一つであるアセチルコリンを脳内にとどめておく作用がある薬物(アセチルコリン分解酵素阻害薬)の開発が1980年代後半から盛んに行われるようになりました。その一つが、抗認知症薬の塩酸ドネペジルです。この薬は1985年にわが国の研究者により開発されました。この薬の有効性を確認するために日本と米国で同時に臨床試験が行われ、1997年1月、いち早く米国でその有効性が承認され発売。1999年9月には、わが国でも商品名アリセプトとして承認され、2000年以後にはガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどの抗認知症薬が続々開発され発売となりました。
しかし、これらの薬には神経細胞の破壊を止めることや、失われた神経細胞を再生する効果はありません。まだ生きている神経細胞の神経伝達物質の働きを高めることで認知機能改善の効果が多少ありますが、それらの細胞もやがて死滅してしまうので、本剤を服用しても認知症の進行を抑えることはできません。
2021年6月に、米国でアルツハイマー型認知症の治療薬としてアデュカヌマブが承認されました。この薬も日本と米国で開発され、日本では2020年12月に厚生労働省に承認申請されましたが、明確な薬の効果が得られず2024年現在でも継続審議が行われています。2023年9月にはレカネマブが軽度アルツハイマー型認知症の進行抑制に効果があることが確認され、治療薬として承認されました。
この2つの新薬は、これまでの抗認知症薬と異なり「抗アミロイドβ抗体」と呼ばれている薬剤で、脳内のアミロイドβタンパクを除去する働きがあります。その働きは、例えば、私たちの身体に病原菌(抗原)が入ると抗体というタンパクが働いて、病原菌を体内から消滅させようとするように、アミロイドβタンパクを抗原とみなし、新薬が抗体として機能し、このタンパクを脳内から排除してアルツハイマー型認知症の進行を抑える働きがあります。
レカネマブは、2週間に1回18か月間点滴静注することで症状の悪化を約3割抑えることができます。課題としては、価格が比較的高価なこと、副作用として脳内に浮腫や微小の出血が15%前後見られることから、投与中は定期的に脳のMRI検査が必要なことが挙げられます。
治療の際は、医師としっかり相談しながら、副作用などについて検討し、進めるようにしましょう。
朝霞地区医師会 今井(いまい)幸充(ゆきみち)
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