文字サイズ
自治体の皆さまへ

わたしたちの健康

36/45

埼玉県新座市

■年頭所感
あけましておめでとうございます。と書きながら、今年はちょっと緊張しています。昨年の元日の記憶がまだ、まざまざと思い出されるからです。私は例年、年賀状を400~500枚ほど書いています。いや、手作りでプリントしています。この数年は年末年始も発熱外来で診療していたり、なにかと忙しく、年始になってから作成する事が常態化。ただ、自分で撮ってきた写真と気の利いた一文をと思って、実は師走に入った頃から準備はしています。昨年もお正月を迎え、宛名面、通信面共に出来上がり、さて、これからプリントしようと思っていた矢先に大きな揺れを感じました。そこから先は皆さんのよくご存知のとおりです。その後、私が現地入りを果たせたのは数か月の後になってしまいました。
新型コロナウイルスによるパンデミックの際もそうでしたが、地震や津波、水害といった災害時にも私たち医療従事者が関わる事が多いのも周知であると思います。東日本大震災の際は、甲状腺ホルモン薬のレボチロキシンナトリウム(商品名:チラーヂンS)の供給が滞りました。この薬を服用中の方は国内で約30万人と言われており、薬剤供給が途絶えると命に関わる事もあります。当時、本薬剤の98%は、あすか製薬いわき工場が製造していたのですが、地震で大きな被害を受け、製造や通常供給がストップしてしまいました。他の製薬会社でも製造はしていましたが、規模が小さく、その供給量は全国での使用量のわずか数日分に留まります。この時は医療関連団体が、超法規措置による国外からの緊急輸入を政府に提言。本来、国内での未承認薬は関税や薬事承認の手続き等を経る必要があるのですが、それでは到底間に合わないからです。本件は多くの教訓を与える事となりました。
さて、昨今の医薬品流通の問題は深刻です。昨年6月に公表されたデータによると、咳止めや解熱鎮痛剤、抗生物質等をはじめ、3,800品目以上が出荷停止、出荷調整となっており、医師が処方する医薬品の2割以上とされます。これは、前述した大震災時のような単一の要因ではなく、数年前から中堅クラス以上の後発医薬品メーカーの品質不正問題など、不祥事での相次ぐ生産中止が最大の理由として挙げられています。他にも、新型コロナウイルスをはじめとする、感染症流行による需要と供給のアンバランスや、咳止め・解熱鎮痛剤等は薬価が安いため製薬会社としては他に収益の高い医薬品を優先せざるを得ないという、薬価制定制度の矛盾があります。多くの医薬品が原材料を海外に依存し、当該国の国内事情により輸入が左右される不安定な状況もあり、なかには、糖尿病の治療薬が痩身美容目的で適用外使用され、本来の糖尿病患者さんへの供給が制限されるという事例もありました。
WHOが発表する世界保健統計2023年版によると、平均寿命、健康寿命ともに日本は世界一となっています。これには、上下水道の普及や栄養状態の改善、医療機関へのアクセスの良さや医療保険制度等いくつもの要因が考えられますが、医薬品の恩恵や日本の調剤・医薬品流通システムの貢献は間違いなく大きなものがあります。2009年の新型インフルエンザによるパンデミックで、日本が突出して死亡率が低かったのも、発熱してから医療機関を受診し、薬剤投与に至るまでの時間が短かったことが大きな要因とされています。言うまでもなく、病気にかからないことが一番ではありますが、現状にも問題があるとはいえ、体調不良時にはいつでも受診でき、速やかに必要な薬がもらえるという当たり前の日本の優れた医療制度を崩してはなりません。
末筆になりますが、本年も皆さんの健康をお祈り申し上げます。

朝霞地区医師会 会長 滝澤 義和
【電話】048-464-4666

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒107-0052 東京都港区赤坂2丁目9番11号 オリックス赤坂2丁目ビル

市区町村の広報紙をネットやスマホで マイ広報紙

MENU