■小島進〈深谷市長〉×栗山英樹〈2023WBC日本代表監督〉
渋沢栄一翁の著書『論語と算盤』の考えを選手の育成やチーム作りで生かしてきた栗山英樹さんを対談相手に迎え、時代を超え現代にも通じる栄一翁の『論語と算盤』について語り合いました。対談は、栄一翁の原点ともいえる生誕地・旧渋沢邸『中家(なかのんち)』で行われました。
小島進(こじますすむ)〈深谷市長〉
栗山英樹(くりやまひでき)〈2023WBC日本代表監督〉
1961年生まれ(62歳)、東京都出身
2012年~2021年に北海道日本ハムファイターズの監督を務め、チームを2回のリーグ優勝、2016年には日本一に導く。2023年WBCでは、野球日本代表の監督として優勝を経験。
◆『論語と算盤』との出会いと選手たちに渡す理由
◯小島市長
今日は、遠いところ深谷まで来ていただきありがとうございます。実際に、栄一翁の生誕地である旧渋沢邸『中の家』に来てみていかがですか。
◯栗山さん
私にとって、渋沢栄一さん(以下渋沢さん)は、先生というと失礼ですが、監督として進む方向性みたいなのを示してくださったんです。
私としては、昔のかたというよりも、自分の心の中では生きていて、常に困った時は頼っていたので、渋沢さんの生誕地を一度訪れたいと思っていました。今日は来ることができてよかったです。
◯小島市長
そうだったんですね。ありがとうございます。栗山さんといえば、北海道日本ハムファイターズ(以下ファイターズ)の監督時代に、『論語と算盤』の本を選手たちに渡していたという話を伺い、大変興味を持ちました。
なぜ、『論語と算盤』だったのでしょうか。
◯栗山さん
自分の勉強する方向性がぼやっとしたときに、新聞で経営者の皆さんの『座右の書』が特集されていて、その中で多いのが『論語と算盤』でした。それで、なぜ皆さんが『論語と算盤』と言うのかなと思ったときに、ちょうど新書版が出て、改めてそれを読んでみたんです。その時に、野球って、『論語と算盤』に一番近いなと思ったんです。
◯小島市長
そうなんですね。
◯栗山さん
チームが最下位になっても、自分が活躍していたら、自分だけ給料が上がってしまうというように、『みんなのために』というのと、『個人』というのが相反する動きをしてしまうんです。そういった組織として難しい点や、そういう人たちにどう生きてもらうかを考えた時に、渋沢さんが『論語と算盤』の中で言っていることに答えがありました。それで、『論語と算盤』を選手に渡すようになりました。
◯小島市長
なるほど、そうでしたか。
◆栄一翁から学んだ想(おも)いを選手に伝えて挑んだWBC
◯小島市長
令和5年3月に行われたWBC(ワールドベースボールクラシック)では、栗山さんは日本代表を監督として率いて、世界一になったわけですが、選手たちに、『論語と算盤』の想いや精神はどのように伝えましたか。
◯栗山さん
渋沢さんが言っている『社会で自分が得た富というのは、社会の形がないと得られない。一人では何もできない。人が生きるというのは、まわりの人のおかげであって人が生きている』という想いを伝えましたね。
どこまで理解してくれたのかわからないですが、『他人事にするな、侍ジャパンの一員だと思わないでくれ、自分のチームだ、俺のチームだとそれぞれが思ってほしい』と伝えたんです。そうすればチームが前に進むと思ったので。
私自身の考えというより、渋沢さんのような先人の素晴らしい知恵の中から、私が学んで大事だと思ったことを選手たちに伝えていたので、そういう面ではすごく渋沢さんに助けていただきました。
◆一人ひとりが『個』ではなく『日本の勝利』を想い全力を尽くした戦い
◯小島市長
WBCを見ていて、栗山ジャパンは年齢に関係なく、すごく良い雰囲気というか、目標に向かって一つになっている印象を受けました。監督としてそういう雰囲気を作り上げていったのでしょうか。トップレベルの選手たちをまとめ上げる監督としての苦労とかはありましたか。
◯栗山さん
私は何もしていないんですよ。選手たち自身が、勝つために必要なことをしっかりやって、そういった雰囲気を作り上げていった感じですね。
◯小島市長
そうなんですか。
◯栗山さん
チーム内で一番年上のダルビッシュ選手を中心に、翔平(大谷選手)とかアメリカで活躍している選手たちが、若い選手たちが思いっきりできる環境、一人ひとりがやりやすい環境をつくってくれたのが、すごく大きかったと思っています。
選手たちが、自分が出られないとか、個人というのをすべて捨ててくれて、日本のために、そして次の世代の子どもたちのために、全力を尽くしてくれました。
選手たちのその姿を監督として横で見てきて、みんながあんなに必死になって自分のことを捨てて、チームのために一生懸命やってくれるとこんなに感動するんだなと感じた大会でもあったので、私も選手に感謝しかないんです。
◯小島市長
そうですか。あの戦いは、私もすごく感動しました。
なんというか、栄一翁も、いろいろな苦労やたくさんの困難を乗り越えてきましたが、客観的にみれば、高崎城乗っ取りを計画したりとか、幕末の混乱時にパリにいなければ亡くなっていたかもしれないなどと思うと、やっぱり運が良いんですよね。失礼な話、あの試合を観ていると、栗山さんもやっぱり、そういったものを引き寄せる何かがあるのかなと思うのですが、どうですかね。
◯栗山さん
まあ、そうですね。そういう意味では私も運が良いのかもしれませんよね。翔平(大谷選手)もそうだと思いますよ。私は、翔平(大谷選手)とかは神様から遣わされたっていう感じがすごくあるんです。野球をする子が減り、子どもの夢も少なくなってきたこの時代に、そういう意味では、本当に神様が遣わしたなと思う瞬間がいっぱいありましたけれど、渋沢さんも間違いなく神様が遣わしている感じがしますよね。
◯小島市長
そんな気がしますよね。生かされているというか。
◯栗山さん
運が良いというより、必ず生きるようになっているというか。
物事を決める監督という仕事は、いつもそれを感じていましたね。試合でどんなことをしても、勝たせてもらえない。要するに、おまえたちの生き様自体が間違っているから勝てないと言われているような、神様から否定されている感じっていうんですかね。
今回のWBCは、おまえたちはちゃんと準備したから、勝たせてやろうみたいな空気を感じたので、それを含めて意味があるのかなと私は思っています。
◯小島市長
そうですか、私も市長をしていると、判断に迷う時が実は結構あります。私の場合は、神様というか、栄一翁だったらどう選択するのかなと、自分の心の中の栄一翁に相談しています。なんか、こう直感的なものがあるのかなと思いますよね。
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