スポーツの現場では、心臓突然死のリスクが安静時の17倍まで高まると言われています。今回は、平成31年に行われた「熊谷めぬま駅伝大会」での発生事案を、大会運営の担当者目線で振り返りながら、備えることの大切さについて考えてみましょう。
◆本部担当の、あの日
「第2中継所から本部へ!ランナーが倒れ、意識不明の状態です!」
駅伝大会も終盤に差し掛かったころ、本部に報告が入った。無線から流れる声は会場の喧騒でかき消されたが、イヤホンをしていた担当者の片耳に直接声が伝わった。「心肺停止。これからAEDを使用します!」
心臓をぎゅっとつかまれるような感覚。判断を迫られるけれど、正しいかなんてわからない。それでも、現場の迷いにつながる指示をしてはいけない。できる限り冷静に、的確に。全体を見ながら、指示を出す。
◆中継所担当の、あの日
ランナーの送迎で混雑する中継所も、終盤になると業務が落ち着いてくる。ただ、第2中継所は、道幅も広いため沿道の声援も多く、まだランナー同士の差も少ないため、タスキを渡す瞬間は最後まで混雑する。そう思って、自分の持ち場から中継所の手伝いへと移動する。
ちょうど中継所についた頃、悲鳴と共に声がした。
「人が倒れた!誰かAEDを!」
AEDは確か中継本部か車の中にあるはずだ。急いで車の中を見る。あった。急げ。でも、大丈夫だろうか。持っていく私が操作することになる。そんなことは言っていられないのはわかっているけれど、手が震えているのがわかる。
結果的に、いくつもの奇跡が重なって命は助かった。たまたま倒れたランナーの後を元消防職員が走っていたこともあり、すぐに胸骨圧迫が行われ、AEDもすぐに使用でき、一般の方の救急車の手配も迅速だった。AEDの通電は2度行われ、途中で一度息を吹き返したような様子が見受けられたが、それは死戦期呼吸とよばれる危険な状態だったということを、元消防職員の方から、あとで教えてもらった。
いつも、同じような奇跡が起こるとは限らないなら、私たちはどんな備えをすればよいだろうか。まず、可能な限り、AEDに慣れておく必要があるだろう。倒れたその人が知らない人だったとしても、誰かにとって大切な人であることは間違いないのだから…。
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