さまざまな「人」と向き合い、たくさんの「人生」を支える福祉の仕事。病気、障がい、年齢…個性の数だけ成長やきずなが生まれる福祉の世界には大きなやりがいがあります。今回の特集では蓮田で福祉に携わる人たちのこれまでの道のり、胸に抱く思いを届けます。
■誰もが自分らしくいられる場所を目指して
就労継続支援B型事業所 かもめ
高野徳子さん
「障がいの程度も得意不得意なこともさまざまです。いっしょに目標を達成するために、1人ひとりに合ったサポートのしかたを模索しています」そう話すのは代表を務める高野徳子さん。
埼玉県に引っ越して仕事を探していたとき、たまたま見つけたのがかもめ。「勤務条件は合ってるし、とりあえずやってみよう。そんな感じで入ってみたんです」
福祉の仕事に就くのは初めて。手探り状態で働き始めると利用者が助けてくれた。「最初は障がいのことを聞いたら悪いかなと考えていました。だけど、利用者さんは隠さずに話してくれて。応援する立場なのに、触れてはいけないと思う感覚が間違っていたことに気づきました。そこから利用者さんと打ち解けて話ができるようなったんです。やってみようで始めた仕事だけど、いっしょに成長したり喜んだりしながら、たくさんの人生に寄り添わせてもらって、今は以前よりもっとのめり込んでいます」
利用者さんが安心して相談できる人になりたいという思いから、50歳を目前に精神保健福祉士の資格も取得した。事業所内の穏やかで明るい様子からは、利用者が安心して過ごせる場所であることが伝わってくる。「かもめのスタッフはみんなおせっかい。心配性のうるさいお母さんがいっぱいいるみたいなんです。いつでも何でも相談できる、安心して自分らしくいられる場所を作っていきたいです」
○就労継続支援B型事業所
障がいや難病を理由に一般企業で働くことが困難な人が、就労に必要な知識と能力の向上を図る訓練などを行う事業所。かもめでは、生活の困りごとを聞いてアドバイスをする生活指導員や仕事の工程を伝える職業指導員の支援の下、障がいや病気の程度に合わせた勤務時間や作業内容で働くことができる。
■人生の残り数ページをともに
訪問介護 えいじゅ
多ヶ谷淑美さん
大学卒業後、福祉施設に事務職として入職。これが今の仕事に携わるきっかけだった。「利用者さんにお願いされて、車椅子を押しながらいっしょに散歩したらとても喜んでくれたんです。それがうれしくてもっと力になりたいと思いました」。それから介護福祉士の資格を取り、訪問介護の世界に飛び込んだ。その後、まさか自分が責任者になるなんて思いもしなかったと多ヶ谷淑美さんは語る。
「利用者さんのお宅で家事をすることもあるのですが、ずっと実家暮らしだったので手際が悪く、利用者さんを不安にさせてしまったと思います」と当時を振り返る。3人の子どもの子育てと仕事との両立は簡単なものではなかったが、どちらも中途半端にはできないと、とにかく必死だった。
今まで多くの出会いがあったが、忘れられないたいせつな記憶がある。開設当初からともに働き、支えてくれた職員が調子が悪いと急に退職した。深くは聞かなかったが、彼女が辞めるのはよっぽどな事情があったのだろうと思っていた。その1年後、彼女が事務所を訪れ、「実は膵臓がんのステージ4.なんです」と打ち明けられた。突然の告白に動揺を隠せなかったが、この仕事をしている以上、人生の最期にも向き合っていかなければならない。「最期は病院かな…」そう彼女は洩らしたが、本心ではないとすぐに気づいた。ともに仕事をしてきた仲間たちでケアをしながら、彼女を家でみとることになった。多ヶ谷さんは「全てをさらけ出して任せてもらえる関係性を築けていたのかな」と思い出を胸にほほえむ。「利用者さんの人生の残りの数ページをいっしょに過ごすことができる仕事です。人生をその人らしく締めくくるために、支えることが私たちの使命だと思います」
■だいじょうぶ、1人じゃない
児童発達支援 いっぽ
石井邦枝さん
「おはようございます!」
子どもたちの元気な声と駆け回る足音でいっぽの朝は始まる。令和5年2月の開所以来、いっぽは発達に心配のある就学前の子どもを預かってきた。「1人ひとりとじっくり向き合い、成長していく姿が見られるのが仕事の魅力」と話す石井邦枝さん。
約20年務めた幼稚園教諭を辞め、いっぽを立ち上げた。そこには自身の経験から来る思いがあった。「私には支援や福祉サービスが必要な息子がいるんです。だから、同じ境遇にいるお母さんたちの思いを知っている。当時の自分と同じ思いを抱えるお母さんたちに自分には何ができるかを考え、いっぽを作りました」
息子さんのことを記事に書いてよいか尋ねると「ぜひ書いてほしい。息子のことは胸を張って話せます」と優しい笑顔で答えてくれた。だが若い頃は、幾度と泣き、どん底に突き落とされたという。「不安で下を向く毎日でした。だけど息子はどんなときでも笑顔を見せてくれる。その笑顔をずっと見ていたいと思ったら、ありのままの息子を受け入れることができました」
当時の自分と同じ悩みを抱え、いっぽを訪ねてくる人に石井さんは寄り添う。「悩むのは真剣に子どもと向き合ってる証拠。まずは自分を褒めてあげてほしい。今は不安かもしれないけど、必ず子どもは成長するよ。他の子よりゆっくりかもしれない、支援が必要かもしれない。だけど、確実に子どもは成長していくし、周りも必ず助けてくれる。未来は明るいよって言ってあげたいです」
これからの福祉の世界を担っていく若きホープたち
■見本となれるような存在に
特別養護老人ホーム 吾亦紅
片瀬翔生さん
在宅での介護が困難な人へ、日常生活の介護、機能訓練、健康管理などのサービスを提供している吾亦紅。市内出身の片瀬翔生さんは福祉系の短期大学を卒業後、吾亦紅で介護職として働いている。
進路に迷っていた高校生の頃、先生に紹介されたのが福祉の世界だった。「子どもの頃から地域の高齢のかたにお世話になった思い出があったんです。今度は自分が力になれたらと思って、この道に進むことを決めました」
「利用者さんからは、『これをしたい』『あれをしてほしい』と訴えがたくさんあったり、けっこう大変なこともありますね」と笑う片瀬さん。仕事に追われるときがあっても続けてきたのは、大きなやりがいがあったからだ。「認知症のかたが多いので、なかなか顔と名前を覚えてもらえないんです。それでもときどき『片瀬さんありがとう』って言ってもらえたときはやっぱりうれしくて、自分たちがずっと支えていきたいと思いました」
働き始めて今年で10年。気づけば後輩も増え、周囲を引っ張る立場になった。「自分より若い職員も多いので、見本となれるような姿を見せないといけないと感じています。仲間からも利用者さんたちからも頼られる存在になりたいです」
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