■どう描く将来の蕨市立病院
[市長]それに、今年1月に発生した能登(のと)半島地震でもあったように、災害時における医療機関の存在も大きいものです。
[伊関]そうですね。だからこそ病院は災害に強い対策をしておく必要があります。
[市長]災害があっても安心につながる病院にしていくことは、たいせつだと感じています。
[伊関]自治体病院はたいせつな医療機関ですが、その役割は、よい医療を安価で効率的に提供することです。当然、財務が良好でなければ医療も提供できませんので、医療と財務の両立が重要です。
[市長]私は、平成19年に市長に就任しましたが、蕨市立病院は研修医制度の改正などもあり、医師が不足し、赤字経営が課題でした。
[伊関]その当時、医師の研修制度の見直しによる、医師の勤務先の流動化が起き、都市志向、大病院志向が加速し、地方を中心に深刻な医師不足が起きました。
[市長]そこで、蕨市立病院の経営改革の中で、医師確保に向けた医師の手当の創設をし、そのほか、地域連携の推進や経営委員会の設置、接遇の改善など、安定経営に向けた取り組みを進めてきました。
[伊関]最近、自治体病院関係の会議に参加しましたが、どの病院も、新型コロナ後の病院経営は厳しいと口にしていました。
[市長]蕨市立病院では、持続可能な地域医療の提供を確保するため、経営強化プランを策定するとともに、高度急性期医療機関からの入院患者の受け入れや救急受け入れなどに取り組んでいるところです。
○耐震化・老朽化対策の中で蕨市立病院は移転建替えに
[伊関]蕨市立病院は、現在、建替えに向けた取り組みが進められていますね。
[市長]蕨市では、この間、学校など立ち遅れていた公共施設の耐震化を完了させ、市立病院の耐震化・老朽化対策を検討してきました。当初は、現在の建物の長寿命化や現在地での建替えを目指しましたが、病院経営を続けながらの現在地建替えは困難と判断し、昨年11月、移転建替え方針案を公表し、市内5か所での市民説明会や「蕨市立病院整備検討審議会」でのご審議を経て、今年3月末に移転建替えを正式に決定しました。今年度は基本構想・基本計画の検討に入り、市民アンケートや病院職員へのヒアリングとともに、引き続き審議会で、ご審議をいただいています。
[伊関]建替えは、病院にとって経営にも関わることですので、じゅうぶんな検討が必要です。
[市長]伊関教授が講演会で話されていましたが、建替えにおいて設計や工事にかかる事業方式の検討など、ローコスト建築の方向性は正にその通りだと思います。
[伊関]病室の個室化もポイントの一つです。ニーズとしては非常にありますし、感染症拡大防止や、認知症患者への対応といった部分でも有益であると考えます。
[市長]ええ。それに、入院環境の改善や病床利用率向上の面からもたいせつだと思います。ただ、全ての個室化というものは、難しいかもしれませんが、できるだけ確保したいと考えています。
[伊関]また建替えでは、医療ニーズ等に合わせた機能の拡充、あるいは絞り込みといった検討も大事で、それによって施設規模も変わります。加えて今、医師不足、看護師不足が言われる中で、働きやすい環境づくりも必要です。
[市長]病院の機能面も審議会で検討いただいています。また、医師の確保ですが、蕨市では昨年、東京医科大学との包括連携協定を結びました。引き続き、大学の協力をいただきながら、医師の確保に取り組んでいますが、働きやすい環境整備は、医師を含めた医療従事者の確保という点においても、たいせつな部分であると思っています。
○誰にも愛され将来にわたり必要とされる病院へ
[伊関]蕨市立病院の目指す方向については、どうお考えですか。
[市長]災害時や新型コロナのような新たな感染症から、市民の命と健康を守る拠点として、また、診療科は現在の体制を維持しつつ、例えば、要望の多い認知症への対応なども重要と考えています。
[伊関]国は、増加する高齢者医療に対応すべく、医療提供体制の構築について検討を進めていますが、正に中小の医療機関は、高齢者医療を担うところが大きいですね。
[市長]そのためにも、急性期医療を基本としつつ、回復期の入院機能も加えるなど、病院機能の拡充が必要だと思っています。
[伊関]地方には、急性期と回復期を担う自治体病院はありますが、都市部ですので都市型ハイブリット病院とも言えます。いずれにしても、蕨市立病院をはじめとする中小規模の医療機関は、地域の砦として、地域の医療を守っていくことがたいせつです。
[市長]そうした点でも、少子化の中で産婦人科や小児科があることは安心ですし、市内外に関わらず、まちを選ぶ上での大きな強みとなると思っています。
[伊関]蕨市立病院の医療圏は、需要もあり、例えば、さいたま市南区方面での需要の掘り起こしなど、発展を秘めた病院と感じます。
[市長]ありがとうございます。蕨市立病院は、これからも市民に愛され、必要とされるとともに、人口減少社会にあって選ばれるまち、そして、安心して住み続けられるまちづくりの核となる施設として、建替え整備を進めてまいります。
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