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ふるさとの文化財探訪 第115回

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大分県九重町

『故郷の文化財の価値』

文化財調査員 清水武則

私は、飯田の農家に生まれ、14歳で父を亡くし、15歳で別府の高校に行き、農家を継いでほしいという祖父の願いに反し、大学は東京に、就職は海外勤務が中心になる外務省に進んだ。年を経るたびに故郷から遠のいていく結果になった。が、一時とも故郷を忘れたことはない。苦労して大学にまで行かせてくれた母親が住む所という他に、私の目に焼き付いた風景があった。それは、立石と呼ばれる高台の巨石がある場所から眺める九重連山の風景だった。そこに立つと霊感に似た不思議な感情をもつ人は今も多い。実は、その巨石の前に広がる草原からは古代の須恵器編片(古墳時代の初期〜平安時代)が発見されているし、隣接するカマザコ遺跡からは住居跡が確認されている。標高1000m近い飯田の一角に古代人が住んでいた、そんなことを知っている九重町民は多くないだろう。
公職を終えたら故郷に帰って自然の中で暮らしたいと長年夢見たことを実現できるようになって、文化財調査員を拝命したことは「ふるさとを知る」上で有難いことだった。故郷の歴史や文物をじっくり勉強し、それらを分かりやすい言葉で、次世代に引き継ぐという重要な任務だと思っている。上述した古代遺跡のように町民から忘れられつつある文化財が九重町にはたくさん存在する。9月に調査した中で、私が関心を持つ樹木の分野では県指定文化財・天然記念物に該当するものは、白鳥神社のアスナロ(田野北方)、相狭間の豊後菩提樹(相狭間)があり、菅原の大カヤ(菅原)は県指定特別保護樹木、冨迫の大イチョウなどがある。カヤの木は901年に大宰府に左遷された菅原道真公ゆかりの木との伝説があるが痛みが激しい。冨迫の大イチョウは推定樹齢約300年の古木だが上部が枯れ始めている。根元に多くの若木が生え養分を吸い取っているのが一因であり、早急に手を打たなければ本体が枯れていくのは明らかである。
ふるさとの価値は、昔から引き継いできた文化や伝統、そして人々の心を育んできたこうした自然や木々の存在ではないかと思う。誰も関心を持たず、自分に関係がないとして放置することがあれば、それは、故郷を失うということではないか。郷土史教育の中でこうしたことを引き継ぎ、町としても保護に万全を期すべきだと痛感させられた調査であった。

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