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ふるさとの文化財探訪 第119回

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大分県九重町

『春の夢と埋蔵文化財』

文化財専門員 西村 威(たけし)

はじめまして、文化財専門員の西村です。私は姫島村に生まれました。九重町の有名な遺跡の中に二日市洞穴がありますが、約8000年前の文化層から出土した石器の中に姫島産の黒曜石があったのです。我が姫島と我らが九重にそんな昔から交流があったのですね。私はこの仕事についてから初めてこの事実を知ったのです。私の脳裏に無数にあった過去のある場面が浮かんできます。観音崎という岬そのものが黒曜石であるその岸壁をよじ登ったり、釣りをする為に擦り傷を作りながら水際まで下りて行った少年の日々。嗚呼、あの手足の切れやすかった石が何千年も前から九重に…。
子供たちはいつの時代でも山や川(私の場合は海や海…)が大好きで、ちょっぴりの危険も省みずまたそれさえも魅惑的で、時に小英雄を生み出しながら大いに遊んだものですね。でもそのせいで有名な遺跡の数々が見つかってきたものなんですよ。あの二日市洞穴も子供たちが土器や石器が出ると知っていたんです。古墳時代の遺跡である二日市横穴は子供たちの遊び場でした。秘密基地ごっこのステージでした。少年からそのまま大人になった素敵な人達もいます。岩宿遺跡を発見した相沢さんや明石原人の骨を見つけた直良さんはそんな方々だった、いつも夢を見ていたやんちゃな大人だったような気がします。となると山や川、海で遊ばなくなった(遊ぶことを禁じられる)現代の少年達から、土器発見、石器発見、→大発見の遺跡発掘という伝統的な黄金ルートは無くなったわけです。これは実は人類数万年の歴史の中でも未曾有の由々しき事態であると思うのは私だけでしょうか。不適切な発言かもしれませんね。では、まだ眠ったままの埋蔵遺跡や遺物を陽の当たる場所に引っ張り出せるのは、誰だ。それこそ傑出したアナログ人間、やんちゃな大人の生き残りの私しかいないのでは?ズズ…春眠暁を覚えず…、不適切な夢を見続けるわたしではありました。

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