■〝推し活〟はカワニナ研究
琵琶湖で7新種を発見
東京大学特任研究員
澤田 直人(さわだ なおと)さん(29歳)
全国の川や湖にすむ小さな巻き貝のカワニナ。その多くが琵琶湖にしかいない固有種の新種をわずか3年余りで7種も見つけました。自宅の水槽でも飼育。「眺めるだけで疲れが吹き飛びます」と、〝推し活〞のカワニナ研究に情熱を注いでいます。
◇川魚研究で琵琶湖に通い偶然の出会いが転機に
市立第三中学校の頃に川魚に興味を持ち、淡水魚の研究をしたくて京都大学農学部に進学。多くの水生生物を育てながら「ここに行かずして何も学べない」と琵琶湖にも足しげく通い、2年生のときに魚をすくった網にたまたま入っていたのが数個のカワニナでした。
琵琶湖は約400万年前から存在する国内最古の湖。水深が深く、限られた範囲で爆発的に種類を増やしたことを知り、「軽い気持ちで調べたのが、研究を始めたきっかけでした」。
◇不明の標本を手掛かりにカワニナの新種発見
カワニナは形や特徴が似ているため種類の特定が極めて難しく、琵琶湖にどのくらいの種類がいるのかも大きな謎でした。それでも「反骨精神からか、どうしても特定したい」との思いを強くしました。
注目したのは、19世紀後半にドイツの学者が見つけたイボカワニナでした。不思議なことに、現在同じ名前で呼ばれる貝と生息環境が違っていたのです。
謎を解くカギは当時の標本でした。長く所在不明でしたが、ドイツの博物館で発見。形などから、現在同名で認識されていた貝は別の新種と分かりました。「標本の貝が本物なのに、いつの間にか別の貝がイボカワニナと呼ばれるようになりました」と話し、3年前に殻の模様や琵琶湖の古称から「サザナミカワニナ」という新たな和名が付けられました。
◇最先端の技術も後押し国内産の3分の1見つける
26年ぶりの新種の発見に続き、翌年も3新種を見つけました。昨年は2つの新種を突き止め、今年も北近江の戦国大名にちなんだ名前の新種「アザイカワニナ」を発表しました。
これで国内にすむカワニナ22種類のうち琵琶湖の固有種は19種類に。さらに研究の原点となった淡水魚の分野でも学生と共同でドジョウの新種を発表。「研究を始めた頃から遺伝子解析が盛んになり、時代もよかった」と話し、最先端の技術利用が新種の発見を後押ししました。
今年4月から特任研究員として東京大学へ。琵琶湖に足を運ぶ回数は減りましたが、「ほかの魚や貝はそれほど増えていないのに、カワニナだけがなぜ種を増やしたのかを解き明かすことが最終ゴール」といい、〝アイドル的存在〞となった巻き貝の謎に挑み続けます。
◆私とふるさと
市立田井小学校に通っていた頃は、成田山の近くの公園によくカブトムシを捕りに行った昆虫少年でした。あの頃の体験は大きく、そのまま大人になった感じです。
市立第三中学校では3年間、ソフトテニス部で活動。高校生まで寝屋川市に住んでいました。今は実家もなく、訪れる機会も少なくなりましたが、3年ほど前にカワニナの調査で久しぶりに淀川に行ってきました。
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