■60歳代で魅力に目覚め エッセー綴って26年
由井 和子(ゆい かずこ)さん(86歳・三井が丘)
テーマは身の周りや読書にまつわる出来事です。60歳代でエッセーの魅力に目覚め、これまで新聞紙面を飾った作品は20点。歳を重ねていく中で「下手でもいいから」という言葉に励まされながら綴ってきました。
自宅から徒歩20分の散歩コースにある打上川治水緑地。今年3月、ここに植えられている1本の桜「きぼうの桜」を題材にしたエッセー『宇宙(そら)桜』が朝刊で紹介されました。桜は国際宇宙ステーションで地球を周回した種がルーツ。「五感を研ぎ澄ませば宇宙の旅の話を聞くことができるかもしれない」と思いを寄せました。
◇同人誌仲間の勧めで初投稿
60歳のときに「下手でもいいから」と同人誌に誘われました。「由井さんの文章はおもしろいから、新聞のエッセー欄に出してみたら」と仲間に勧められたのはちょうど10年前。白髪染めをやめたときのエピソードを題材にした『三毛猫だけれど』が紹介され、これが新聞投稿の始まりでした。
しばらくして日常の中にテーマがあることに気づきました。ある日、孫が英検(実用英語技能検定)を受けると知り、「私にもできる」と挑みます。3級までとんとんと進み、準2級で3度不合格に。それでも「年のせいではない。実力不足なのだ」と79歳で書いた『挑戦』は月間賞と年間の特別賞に輝きました。
◇ビブリオエッセーと出会う
本に関わる思い出や喜びを綴るビブリオエッセーと出会ったのは80歳を過ぎてからでした。中学生の頃から読書に親しみ、本箱は小遣いで毎月買った全8巻の『風と共に去りぬ』やファンだった井上靖さんの著書でいっぱいでした。
その中から読み返して投稿することも。これまで『宮沢賢治詩集』や司馬遼太郎さんの『梟(ふくろう)の城』をテーマに8点が紙面で紹介され、うち2点が月間賞に選ばれました。
◇歳重ねて読み方も変わる
60歳の頃に読んだ『全訳 源氏物語』もその一つです。千年も読み継がれる紫式部のベストセラーを歌人の与謝野晶子が訳しており、京都三大祭の一つの葵祭(あおいまつり)をテレビで観て思い出しました。
登場人物の人間関係は複雑で身分や立場も様々。久しぶりに手にした本は「書き込みがいっぱいで人には見せられません」と笑います。80歳を過ぎて読み返すと光源氏の晩年が気になったといい、「歳を重ねて読み方も変わりました」。月間賞の選考では「終活と源氏物語というテーマ設定が斬新」と評価されました。
◇「指が動く限り思い綴りたい」
55歳から始めたパソコンは現在3台目。思いついたら書き留めるネタ帳にも使っています。「エッセーは650字程度。ついつい長くなり、文章の推こうにも欠かせません」。出来上がったエッセーは夫がいつも「採用されますように」と成田山不動尊で祈願し、ポストに投函してくれました。
辞書を開きながら学生時代を思い出し、原稿を読み返す緊張感にも襲われエッセーに向き合った26年。「これからも指が動く間はキーボードの感触を楽しんで自分の思いを綴っていきたい」と、今日もパソコンに向かっています。
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