■「薬屋のひとりごと」へのひとりごと
大阪教育大学名誉教授
堀 薫夫
現在流行っているコミック/アニメ/小説に「薬屋のひとりごと」なる作品がある。薬の知識が豊富な後宮の薬師である猫猫(マオマオ)が、毒や薬にまつわる事件に取り組むという物語である。彼女は花街の出身なのだが、そこでの妓楼(ぎろう)の描かれ方が、コミックとアニメで異なるのである。華やかな遊郭の中には隔離された部屋があり、梅毒に冒された遊女がそこに隔離されている。それにかかわる話はしかし、アニメのほうには出てこない。この点は先に大ヒットした「鬼滅の刃」の遊郭編でも同様である。
こうした点は内外の有名なミステリ作品にも存在する。ある病に冒された人物がそれを隠すために罪を犯す作品、あるいはそれが原因で生じる犯罪を描いた作品。しかしこうした作品の多くがテレビなどで放映されたとき、その病名は意図的に隠されたり改竄(かいざん)されたりする。
これらの事例の背後にあるのは、こうした病を患う人びとへの偏見を助長させないための配慮であろうし、人権意識への配意でもあろう。しかし逆にそのために、作品の重要な部分を変更することにもなる。ミステリの場合は凶行動機の書き換えとなる。
ホストクラブなど、光眩いところには濃い影がともなう。その影を正しく伝えることもまた、人権意識の啓発において重要だろう。しかし、子ども向けテレビアニメ作品でそれを伝えることには限界があるのかもしれない。「薬屋のひとりごと」では多くの薬と毒が同時に出てくる。そして主人公は毒見を楽しんでいる。薬と毒は不即不離の関係にある。ちょうど異臭と香水の関係がそうであるように。毒を消すのか、毒を伝えるのか、人権への配慮のあり方が問われているのだ。
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