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人権コラム「しあわせ」

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大阪府河南町

◆「教科書無償化」に込められたねがい
▽教科書に添えられた言葉
入学、進学を迎える春。学校では真新しい教科書が子どもたちに手渡されます。その教科書の裏表紙に添えられた言葉を皆さんはご存知でしょうか?
「この教科書は、これからの日本を担う皆さんへの期待をこめ、税金によって無償で支給されています」
また、小学1年生に配布される教科書の紙袋の裏面には「保護者の皆様へ」と題する次のような文章が印刷されています。
「お子様の御入学おめでとうございます。この教科書は、義務教育の児童・生徒に対し、国が無償で配布しているものです。この教科書の無償給与制度は、憲法に掲げる義務教育無償の精神をより広く実現するものとして、次代をになう子どもたちに対し、我が国の繁栄と福祉に貢献してほしいという国民全体の願いをこめて、その負担によって実施されております。(略)」

▽被差別部落の皆さんや多くの方々の力で実現した教科書無償化
こうして読むと、国や自治体が自ら進んで教科書無償化を実現させたかのようですが、実は、教科書無償化実現には、各地の被差別部落の皆さんや無償を求める多くの市民の皆さんの力があったのです。
1950年代、かさむ教育費負担は貧困と差別にあえぐ被差別部落の家庭、貧しさにあえぐ家庭を直撃し、保護者や子どもたちを苦しめていました。当時、ある小学校の子どもは作文にこう書きました。
「先生、わたしが学校をさいさい(しばしば)休むのは、かぜをひいて休む時もありますが、もうひとつのわけは、うちがびんぼうで、ねえさんが中学校を休んで、うちの手伝いをしています。私はそのねえさんを見ていると、きのどくで朝学校へいこうと思っても行きにくくなって休むのです。先生ごめんなさい。(略)私のうちは、おとうさん、おかあさんが毎日ごはんを食べず働いてくれます。(略)」(「戦後同和教育の歴史」解放出版社1976年)
こうした中、被差別部落の保護者たちは貧困と差別の結果、自分たちは十分な教育を受けることは出来なかったが、子どもらには同じ思いをさせたくないという思いから立ち上がりました。また、憲法には義務教育は無償と書いてあることを学びとり、教科書無償は被差別部落だけでなく全ての人の人権の問題であるとして大きな運動を築き、遂には国をも動かし、1963年度入学の1年生を皮切りに1969年には全小中学生への無償配布を実現させたのです。

▽基本的人権としての教育をうける権利
教育を受けることは全ての人に保障されるべき基本的人権です。そして、教科書無償化は人権保障の偉大な一歩です。しかし、今の日本社会では、依然として、家庭の経済状況、社会的な立場の違いによって、教育を受ける権利が十分保障されていない実態があります。教科書無償化から60年目の春。改めてその取り組みに学び、教育を受ける権利を保障する取り組みを進めなければなりません。

池上英明(大阪教育大学)

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