■地震は大丈夫でしたか
「地震は大丈夫でしたか?」と、校内を案内してくれる中学3年生の問いかけに、「はい、大丈夫です」と石川県から来られた教員が答えた。今年に入って一月二〇日、池田市立ほそごう学園で文部科学省の人権教育研究推進事業の研究発表会があり、私はパネラーとして参加した。午前中に公開授業と提案授業があり、午後から分科会と全体会を行うことになっていた。昼食のあと、午後からの研究協議がはじまる前に、中学3年生が「おもてなし」と名付けて校内を案内してくれた。冒頭の問いかけは、案内役の生徒が発したものである。
ほそごう学園は、大阪府池田市の北部に位置し、平成二七年四月に二小学校と一中学校が統合して、施設一体型小中一貫校として開校、その後平成三〇年には義務教育学校となり、今年度で六年目を迎えている。案内してくれた中学生は、義務教育学校なので、九年生ということになり、学園が開校した時に一年生として入学してきた子どもである。案内役の彼が一人、私たち参加者が三人で一つのグループを作り、校舎を案内したり、校舎内に掲示された生徒たちの取り組みについて説明を受けた。二〇ほどのグループが順に出発して行った。
「最初にお名前と、どこから来られたのかを教えてください」と始まった案内。大阪の岡田ですと言う私に続いて、「石川県から来ました〇〇です」。そこで、彼は間髪を入れず、「地震は大丈夫でしたか?」と問いかけたのである。「能登ではなかったので、大丈夫です」。生徒は、このやり取りに始まり、一五分ほどだったがメモも何も見ずに案内・説明してくれた。
最後に石川県から来られた教員が、「どうしてそんなに上手に説明できるようになったの」と尋ねた。「小児がんの闘病生活をしていました。最初は、母が同じような病気や障がいを抱える子どもや家族にケアを届ける活動についていっていましたが、今はぼくが自分で活動したり、プレゼンしたりしています」。
ほそごう学園のめざす子ども像は、「自己実現できる子」だ。そのために、創造する力、行動する力、描く力、見つめる力、つながる力、つなげる力を育てる、そのための人権総合学習の一貫したカリキュラムが組まれている。このような九年間のほそごうの教育が、この子とこの子とともに生活する子どもたちを育てたのだ。
一月一日の地震発生以来、石川県をはじめとして、被災地ではたいへんな毎日が続いている。この日の研究発表についても、事前の申し込みを断るかどうかの判断があっただろう。しかし、同僚から「これから一層人権教育が大事になるだろうから、行って学んで来てほしい」そんな声かけがあったにちがいない。真剣に学ぼうとする私たちに、ほそごう学園の子どもたちは、充分に力を与えてくれた、そんな一日だった。
岡田 耕治(大阪教育大学)
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