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人権コラム「しあわせ」

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大阪府河南町

■「人の気持ちになって考えてみなさい」?でも、どうやって?
子どもの頃、「人の気持ちになって考えてみなさい」とか「自分がその人の立場だったらどうする」という言い方で叱られた経験がある人は多いのではないでしょうか。実際に友だちの立場から考えてみたら、自分のとった行動がその子を傷つけていたかもしれないとハッと気づいたことがあるかもしれません。自分と他者は同じではないこと、置かれている立場によってものごとは違ったように見えることを、このようにして少しずつ学んでいきます。

だけどよく考えてみると、自分がその人の気持ちになって考えてみたことは、ほんとにその人の気持ちを反映していたのでしょうか。もしかしたら、私の想像した友だちの気持ちは「ハズレ」だったかもしれません。友だち自身、はっきりとした気持ちを自覚していなくて、「正解」というもの自体、存在していなかったかもしれません。

また、自分と相手の立場が違いすぎて、想像しきれないこともあるでしょう。例えば、こんな例があります。私のつれあいは、広い大きな公園や河川敷の広場が大好きで、そういった場所で、ポットで持っていった熱いお茶を飲んだり、座って本を読んだり、寝転んだり、音楽を聴きながら歩くのが大好きです。一方、私はひとけのない場所でひとりきりでいるのは落ち着きません。それは「女性」として長年生きてきた経験から、知らない人に話かけられたらどうしよう、ちかんにあったらどうしようという不安がどこかにあるからです。つれあいは、私にそのことを言われるまで、そんなことを思いつきもしなかったと驚いていました。

世界中には、当人に聞いてみないとなかなかわからないことがたくさんあるのです。石岡丈昇さんという社会学者がいます。石岡さんはフィリピンのボクシングジムに住み込み、プロボクサーを目指すフィリピンの青年たちと一緒にボクシングに励みながら、かれらの生活世界に入り込み、かれらのものの見方を学びました。

『エスノグラフィ入門』(ちくま新書2024)は、石岡さん自身が調査をしたり先行研究を読んできた経験をなぞりながら、他者の生活を理解し描く方法について説明している本です。もちろん、他人を100%理解することはできません。自分のものの見方にはバイアスがかかっているかもしれません。ですが、そのバイアスがどういうふうにかかっているのか、つまり、自分の立ち位置がどうであったかも含めて記述をしていくのです。

エスノグラフィを通じて、自分のよく知らない「よくわかんない人たち」だと思っていた他者が、「あ、その気持ち、ちょっとわかるかも」と急に身近に感じられるようになるかもしれません。わからないからといって、すぐに切り捨てたり諦めたりするのではなく、その人たちのおかれた社会の構造も含めて他者を知ろうとすることは、今の社会にもっともっと必要なことだと思います。

齋藤直子

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