衣服や繊維製品にまつわる思い出、感動したことなどをテーマとしたエッセイで「繊維のまち・泉大津」を広くPRするために創設した第12回「泉大津市オリアム随筆(エッセイ)賞」の受賞作品が、全国から応募のあった243点の作品の中から選考されました。
選考は、難波利三氏、有栖川有栖氏、玉岡かおる氏、吉村萬壱氏の4氏により行われ、白熱した議論の結果、「オリアム随筆賞(最優秀賞)」を含む上位6作品と、特別賞である「泉大津市長賞」を最終決定しました。入賞全作品は市のホームページに掲載しています。
また、3月16日(土)にテクスピア大阪で受賞者の表彰式および、選考委員をパネリストに迎えた文学フォーラム「オリアムエッセイ教室2024」の開催を予定しています。
※詳細が決まり次第、市ホームページでお知らせします。
■受賞者一覧(敬称略)
※詳しくは本紙をご覧ください。
■選考委員による選評
▽難波 利三氏
最優秀賞『毛布の涙』は、書き出しが大袈裟だと思いつつ、読み進めるうちにぐいぐい引き込まれ、気がつくと自分の涙腺も完全に弛んでいた。遺族支援という苛酷な任務の実態が生々しく描かれ、非業の悲しみと寄り添う人間愛が胸を打つからだ。貴重な記録としても遺したい作品である。
優秀賞『藍染の手ぬぐい』は、出来過ぎた美談仕立てではないかとの邪念をふと覚えるが、読後の感動がそれを払拭する。凛々しく成長した若者の姿が目に浮かぶ。『奇跡の通園かばん』は、文章がこなれて読み易く、描写も丁寧で二つのかばんが見えるよう。そのかばんで偶然結ばれた絆がしんみりと、後味良く伝わる。
佳作『アゲハ蝶』は、的確な文章で随所にリアル感が漂い、黒のイメージも効果的で兄妹の深い情が偲ばれる。『父の昔話』は、丁寧言葉の書き方が内容に相応しく、心に響く。ラストに微かな希望が差すのもいい。『絹の小風呂敷』は、切り口が新鮮で全編に明るさが漲り、意外性が楽しい。読後、つい笑みがこぼれてくる。
泉大津市長賞『毛布と私』は、どこかユーモラスな筆運びが好ましく、愛すべき祖父像が鮮明で結末も決まっている。
▽有栖川 有栖氏
最優秀作の『毛布の涙』は、東北の被災地での苛烈な体験を生々しく書き抜いており、強い作品になった。毛布の描き方にもはっとさせられ、全体的に記録性も感じる。
優秀作は二編。『藍染の手ぬぐい』は感情表現に抑制が利かせたことで「(込み上げるものがあった」で充分)、かえって読む者の心に響く。一方、『奇跡の通園かばん』には日常の中での劇的なめぐり合わせと。その中で動いた作者の気持ちが細かく素直に綴られている。
佳作三編のうち、『アゲハ蝶』はまず文章が優れており、切り取られたエピソードも印象深い。亡き兄に寄せる作者の想いがしみじみと伝わってくる。『父の昔話』は、九十歳の父親が昔話を聞かせてくれた後、「それ以上何も言いませんでした」というのがポイント。『絹の小風呂敷』は、帯を買うはずが小風呂敷になり、さらにそれが……という展開が面白く、興味深い。
泉大津市長賞の『毛布と私』は、ユーモアを交えて「毛布の良い点」が語られ、楽しく読めた。
▽玉岡 かおる氏
最優秀作の『毛布の涙』は、あれだけの被害と悲劇をもたらした東日本大震災も、年々記憶は薄れゆく。だがこの人にしか書けない体験は、確実にフィードバックさせる記録文学になっている。
優秀賞『藍染の手ぬぐい』は、ドラマのような巡り合わせだが、少年を励まそうと与えた藍染めの手拭いの、褪せた色のかげんが効いている。歳月は偉大。『奇跡の通園かばん』は、こちらもドラマのような巡り合わせ。奇跡という言葉がおおげさにも感じたが、少年の成長を見届けられなかった母親に代わって注ぐまなざしが暖かく、余韻が残った。
佳作『アゲハ蝶』は、亡き人の気配をふと近くに感じる時。それをアゲハ蝶に象徴させた感性が響く。『父の昔話』は、一つの時代に区切りをつけようとするのに、父は是非を告げず、よき思い出だけを語ってきかせる。場面が目に浮かぶようだった。『絹の小風呂敷』は、結婚のしきたりに寄せる思いの、今、昔。明るい筆致に好感が持てた。
泉大津市長賞『毛布と私』は、毛布工場のある町の景色を、視覚だけでなく音でも綴った。テンポもいい。
▽吉村 萬壱氏
冬の寒さがよく似合うオリアム随筆賞。
最優秀賞の『毛布の涙』は、文章の巧拙を超えた事実の重みが、圧倒的に迫ってくる作品。遺族は初対面がいちばん辛く、二回目以降は落ち着くといった冷静でリアルな筆が涙を誘う。
優秀賞『藍染の手ぬぐい』は、ドラマのようなよい話。藍染の手ぬぐいに劣らず、ぜんざいもまたいい仕事をしていた。『奇跡の通園かばん』は、この話自体は感動的だが、この幼稚園の制度、奇跡よりも悲喜劇の方が多いのではないかと、ちょっと勘ぐってしまった。
佳作『アゲハ蝶』は、亡き兄の一言がずっと引っかかって後悔していた思いが、兄に貰ったショールの温もりで溶けていく。読むほどに心に沁みる作品。『父の昔話』こちらも『藍染の手ぬぐい』同様ドラマのようなよい話。商店街ならではの人情味が伝わってきた。『絹の小風呂敷』は、今回この作品が最も布が主役に立っていると思い、私の中では一番だった。物言わぬ小風呂敷が生きている。さりげないその存在感。
泉大津市長賞『毛布と私』は、こんなかたちで毛布の効用を記した文章を初めて読んだ。ラストの一文も洒落ていた。
■最優秀賞作品
※詳しくは本紙をご覧ください。
問合せ:地域経済課
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