■悶々としていた20代に衝撃を受けた舞台。
―平成5年の市制施行50周年の際、「新しい郷土芸能を」を合言葉に、和太鼓団体の高槻太鼓が始動したことがきっかけで和太鼓が定着したと言われる高槻市。高校でもクラブ活動が盛んですが、政本さんも学生時代から和太鼓を叩いていたのですか?
▽「いえいえ、小学校から高校まではサッカーひと筋で。高校在学中にプロサッカー選手を目指していましたが挫折してしまいまして。目標を見失って社会に出て、いろいろチャレンジはしたけど、何をやってもあまり続かなかったんですよ」
―若くもあり、将来について悩める日々だったかもしれないですね。そのジレンマから抜け出すことはできたのですか?
▽「25歳の時に、神戸を拠点に活動する和太鼓[松村組]のコンサートを知人に勧められて観に行ったんですけど、舞台を観たら雷が落ちたような感覚で、『これやな、こうなりたい!』と思って、そこへ飛び込みました」
―衝撃的な出合いだったのですね。[松村組]では、すぐに奏者デビューできたのですか?
▽「それまでサッカーしかやってこなかったので、すぐには無理でした。周りはみんな年下で、和太鼓や音楽経験者ばかりでした…2年間は下積み生活でしたね」
―2年は結構長く、大変そうですね。
▽「これ!って決めたので、気持ちは楽でしたね。和太鼓の代わりにタイヤを叩いて練習してたのですが、実家でやると周辺から『うるさい』って苦情がくるんですよ。だからタイヤを樫田の民家から離れた場所に持っていって叩いてました」
―自然に囲まれての稽古も気持ち良さそうです。当時は、高槻から神戸に通っていたのですか?
▽「はい、正式なメンバーとなる前から神戸に住むようになり、そこから10年活動して、一つの区切りとして、自分が代表を務める[和太鼓政や]を高槻の大蔵司でスタートさせました。その時に住まいも高槻に戻しました」
―新しい拠点を、出身地の高槻につくりたいという想いがあったんですか?
▽「そうですね。僕自身、和太鼓に人生を変えてもらったと思っていて、ぜひこの魅力を地元の人たちに知ってもらいたいなというのがありましたね。地元愛が強かったので、神戸にいる時も、いつかは高槻でも和太鼓を広めたいと思ってました」
■非常時に光明を見いだす祖父母からの贈りもの。
―[和太鼓政や]は、どのような場所なんですか?
▽「ここでは貸しスタジオと定期的に教室をやってます。教室は、3歳の子どもから上は80代の方まで、10クラス展開しています」
(北海道から沖縄まで、[和太鼓政や]は全国を回って公演しています。)
([和太鼓政や]は、不定期で高槻市内の小学校での演奏も行っています。)
―スタジオの前には、たこ焼きを売るブースもありますよね?「
▽そうなんですよ。新型コロナの影響でスタジオの活動が約3年止まって演奏もできなくなってしまって。こちらとしてはスタッフを抱えているので、なんかせなあかんなと。実は、祖父母が茨木市でお好み焼き屋を50年ぐらい続けていて。店は閉めたんですが粉はあったので…
―なるほど、その粉を生かそうとしたわけですね。
▽「これはピンチをチャンスに変えれるんじゃないかと。だから若いスタッフに、『バチを1回置け。今はそれを持っていてもしょうがないので、これを持て』と一人ずつたこ焼きピックを渡したんですよ(笑)。最初は、『オレは、たこ焼きを焼きにきたんじゃない!』とか言うかなと思ってたんですけど、ある日メンバーの一人に『先生、ちょっとお話があるんですけど』と言われて。あー、ついにきたかなと思って、『どうしたんや?』と聞くと、『僕、ピック2本で回せるようになりました』って(笑)。『すごいなお前』って言いながら、なんとかたこ焼きで苦境を乗り切りました」
―頼もしいメンバーたちですね。今[和太鼓政や]は何人で活動しているんですか?
▽「太鼓メンバーが私を入れて4名、アンデスの民俗音楽・フォルクローレの楽器奏者が2名、マリンバ奏者が1名の7名編成ですね」
(政本さんは大阪高等学校で和太鼓部部員120人を指導。今年から母校の金光大阪高等学校でも指導を開始。)
―フォルクローレとはどんな音楽なんでしょうか?
▽「サイモンandガーファンクルも演奏した『コンドルは飛んでいく』でおなじみかと思います。日本から見たら、地球の裏側の南米の楽器なんですが、尺八と構造や、使う音階も同じみたいで、どこか懐かしい感じがするのはそのせいかなと。和太鼓との相性はバツグンだと思いますね」
■外国人観光客に向けて、和太鼓と高槻の魅力を発信。
―昨年は、高槻城公園芸術文化劇場のトリシマホールで、「政やの太鼓祭」を開催しましたね。
▽「市制施行80周年の記念で1回目をスタートさせました。[和太鼓政や]の単独のコンサートにプラスして、地元市民や企業さんも出演していただき、最後は100人+和太鼓100台が舞台に乗って演奏しました。好評をいただいたので今年も第2弾をやります(8月25日に開催済み)」
―地元高槻の和太鼓をますます盛り上げてくれていますが、これからやっていきたいことなどはありますか?
▽「京都を訪れている外国人観光客を高槻に呼び込みたいと思っていて、9月からは高槻観光と和太鼓をセットにした催しを考えています。高槻は京都と大阪の中間ですし、魅力を知ってもらいたい。まずは和太鼓を体験してもらって、これが定着してきたら観光にも巡ってもらい、だんだんカスタムをしていこうと。海外の方は和太鼓に興味を持たれてる方も多いようで反応がいいんですよ。太いバチで体を使ってドーンと打つのは、ニッポンの独特の鼓奏法というか、和太鼓の魅力だと思います。そこがすごく喜ばれますね」
(スタジオ前の「政やのたこ焼」は、今は不定期で開店。高槻まつりなどのイベントに出店することも。)
―和太鼓が盛んな街・高槻で太鼓の体験をしながら観光もしてもらう…とてもいい試みです。
▽「これから根づいていけばいいと思います。また来年は[和太鼓政や]10年目に入るので、高槻から出発して高槻でフィナーレの全国ツアーをしたいと思っています。今も全国各地で公演するんですが、地元・高槻の話もします。ひらけた街もあるし、ちょっと行くと自然があってどちらも共有できる、人は温かくてとてもいい街だと。これからも和太鼓を通して、全国へ、そして世界へ高槻の魅力を伝えていきたいですね」
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