◇ママチャリに乗って、七ヶ浜の海に
[阿部]高校に入るときに、東北高校からの誘いがあったのに、なぜ、ライバル校の仙台育英学園高校に進んだんですか。
[大越]東北高校の練習を見学した帰りに、新幹線の時刻までに時間があったので仙台育英にも行ってみたんです。
練習をフェンス越しに身を乗り出して見ていた時、竹田監督に一球投げてみないかと言われ、これはチャンスだとアドレナリンがカッと出て夢中で投げたところ、「うちに来てくれ!」と誘われたのがきっかけでした。
ところがその後、スムーズに育英に行けるかというとそうはいかなかったんです。両親からは地元(八戸高校)でなければだめだと言われ続け、何百回と土下座してお願いしてようやく許されたんです。
こうして育英に入ったんですが、周りのレベルが高すぎて、当時、私は、とんでもないところに入ってしまったと思いました。練習は厳しく、休みもなく、寮生活でも皿洗いや洗濯とか、自分の時間もなくストレスがたまる一方でした。
一度だけ、病院に行くとうそをついて、中野栄の寮からママチャリに乗って七ヶ浜の海に行きました。花渕の海を見て頑張ろうと思って帰ってきたんです。
そうしたら、次の日に監督室に呼ばれて、「お前、昨日病院に行ってないだろ!」と。当時は指導者にうそをついたら鉄拳が来るんですよ。
これはまずいなと思ったら、竹田先生は、私をギロッとにらんで、うそだとわかっているのに、もういいと流してくれたんです。
その時に思いましたね。年上の方や先生、指導者に嘘はついちゃいけない。絶対にばれている。私は先生をしていたけれど、生徒がうそをつくとすぐわかる。(子どもたちに向けて)お母さんから追及されなくても、ばれているからな。大人はすべてお見通しだから、うそをつかないこと。
その時の話を今でも竹田先生にするんですけど、忘れているんですよ。でもこう言ってくれました。「それを機会に、俺にうそをつかないと思えたお前が偉い」
うそをついてしまって申し訳ない気持ちで言ったんですが、ちょっとほっとしました。
[阿部]お母さんたちも頭ごなしに、ごしゃいで(怒って)はだめなんだよね。やっぱり先生だねぇ。
[大越]七ヶ浜の同級生や同世代の人たちに、もまれたことも含めて、仙台育英に入ったというのも今思えば運命を感じますね。
◇子どもたちは、いっぱい失敗してください。
[阿部]ご父兄から子どもたちが家に帰っても何もしないと聞きます。時間の使い方について教えてください。
[大越]私は小さい時から服や布団をたたんだり、机の上を整理したり、きれい好きだったんです。プロ野球選手は失敗が許されないんです。きちんとしていることが求められます。
皆さんもユニフォームの着方やノートの取り方など、日常の生活の中からきちんとして、野球に結び付けていくことが大切です。
時間の使い方も少し空いた時間に何をするかとか、保護者に頼らないで自分で考えて時間の使い方を決めていくことが自分自身にとって、プラスになるんではないかなと思います。
今日、実は、ちょっと時間があったので仙台育英の野球部の見学に行ってきました。ちょっとした隙間時間だったけれど、今度、オリックスに入る生徒と話ができ、後輩からエネルギーをもらって、とても気持ちよくこのセミナーに臨むことができました。
子どもたちみんなは、いっぱい失敗してください。大人の方は、失敗したことを責めないでください。
私は小学5年生で全国大会に行きましたが、小学6年生で野球をやめてバスケットをしたり、大学も中退して野球部をやめたりして、私は失敗だらけでした。
53歳で高校の教師を辞めて、とても不安だったけれど、福岡ソフトバンクホークスから声がかかり、今は決断してよかったと思っています。人生をレールに乗ったような感覚じゃなくて、いっぱいいろんなことにチャレンジしていってください。
そういう時代になってきました。これからの時代はもっとそのようになってくると思います。大人の方には、子どもたちを温かい目で見守っていただき、後押しをしていただきたいと思います。
[阿部]まるで先生のよう。また先生に逆戻りするわけじゃないですよね!
[大越]いずれ戻りたいと思います。先生が好きなので(笑)
[阿部]大越さん、ありがとうございました。
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