■秋になると大変身を遂(と)げるセンボンヤリ
浅利 聰温
センボンヤリは、日本全土の日当たりの良い草原に生えるキク科の多年生草本。どこでも普通に見られるものではなく、よく友達と遊びまわっていた頃、地表が剥(む)き出しで、芝などの背の低い草が多い場所に生えていた記憶がある。
春に出てくる葉は卵状心臓形で長さも幅も2cm程度の小さなもので、葉の裏側には白い毛がついている。4月中旬ごろに高さが10cm位の花茎(かけい)を伸ばして、その先端に直径1cmほどの花を一輪(いちりん)だけつける。この花の周辺部はヒマワリの花と同じように、一枚の花びら(舌状花(ぜつじょうか))が数枚集まって一つの花のように見える頭状花となっている。花びらの表面は白いが、裏側は薄い紫色を帯びていることが多いので別名ムラサキタンポポという。
センボンヤリの名前は父に教えてもらったのだが、『頓智(とんち)で知られた一休さんに「一本でも千本槍(せんぼんやり)とはこれ如何(いか)に」と聞いたら「一枚でも千べいというが如(ごと)し」と答えるかもしれないな』などと笑いながら話してくれたことを思い出す。
早春のセンボンヤリの容姿は清楚(せいそ)で愛らしい花だが、9月を過ぎる頃になるとタンポポのような大きな切れ込みのある長い葉が伸び、中心部から空に向かって20cm以上にもなる長い花茎が真っ直ぐに伸び出してくる。そして、その先端は春先に出てくる花と違って花びらがない管状花(かんじょうか)だけが集まっている閉鎖花(へいさか)(花が開かないで自分の花の中で受粉して結実する花)になっている。だから早春の時期の花とは同じものと思えないほど逞(たくま)しい姿に変身している。
センボンヤリという名前の由来は、秋の草地にたくさん集まって直立して生えてくる閉鎖花(へいさか)の花茎を槍(やり)に見立てたものだという。この連想は素晴らしいと思うが、残念ながらそのように密生しているところは無くて、見たのはせいぜい数本位のものであった。やがて果実が成熟すると、その先端に種子がついている茶褐色の冠毛(かんもう)が伸び出して、風に乗って遠くまで運ばれていく。この秋にはすくっと伸びた槍の姿をぜひ見て欲しいものだ。
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