「まわり道でも」
東京出張の際には出来る限り阿武隈急行を利用している。先日も福島駅から丸森に向かった。車窓から見える四季折々の風景は、私の好きな景色の一つだ。春には花が咲き、種類豊富な野菜畑も車窓に映る。秋が深まる今はリンゴや柿が色づき、ぶどうの収穫の時期だ。黄金色の稲穂はもう残り少なく妙に鮮やかに目に映った。兜(かぶと)駅付近からは悠々と流れる阿武隈川と並走し、鉄橋からは舟下りの船も見ることができた。こんな列車の旅も満更でもない。
途中の駅で乗車した方は自転車と共に乗ってきた。阿武隈急行は、サイクルトレインとして自転車を折りたたむことなく乗車することができ、昔にはない新たな取組に様々な工夫も感じる。また、2歳程の男の子が両親と共に流れる景色を見ながら声を出して喜ぶ姿を微笑ましく眺めた。
私と同じく福島駅からの乗客は50人程だっただろうか。県境が近づくにつれ乗車人数は少なくなり、阿武隈急行の存続への課題を目の当たりにした。改めて解決策をしっかりと考え、地域の発展に繋がなければとの強い思いにかられた。
そんな中、乗務員の乗客に対する姿勢にはいささか感服した。福島駅を出発する時、そして各駅で降車する方々に脱帽して頭を下げ、御礼の言葉を添えていたのである。何度となく阿武隈急行を利用しているが、初めて見た光景で心が晴れやかな気持ちになった。
鉄路の有無はこれからの町の将来を大きく左右する。地域に鉄道や駅があることが、その地域の人々に安心感を与え心の拠り所にもなる。主要な公共交通は、社会インフラとして、公的負担をしながらも持続しなければならないものと思っている。
近頃、存廃を協議してきた阿武隈急行を存続していくことに決めた。
まわり道でも乗ってほしい。時代を越えて残していくために。
丸森町長 保科郷雄
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