小林稜平×郡和子
仙台を拠点にする宇宙スタートアップの代表である小林稜平さんをお迎えし、宇宙への挑戦や仙台への思いなど、郡市長と語り合っていただきました。
会場:東北大学青葉山ユニバース
■小林稜平さん
株式会社Elevation Space(エレベーション スペース)代表取締役CEO。東北大学大学院在学中の2021年に起業。2023年、アジアから世界を変える30歳未満のリーダー「Forbes(フォーブス)30 UNDER(アンダー)30 ASIA(アジア)」に選出。1997年、秋田県生まれ。
■人生を変えた「宇宙建築」との出会い
[市長]あけましておめでとうございます。若手起業家として活躍する小林さんは、23歳で会社を立ち上げ、「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする」ことを目指し、小型人工衛星の開発などのプロジェクトに取り組まれています。今や世界から注目される存在ですが、初めに、宇宙の分野で起業することになったきっかけを教えていただけますか。
[小林]元々宇宙少年だったわけではないんです。中学1年生の時に東日本大震災を経験し、災害に強い建物やまちをつくりたいという思いで秋田の高専で建築を学んでいました。19歳の時に東北大学に進学することが決まり、新しいことをしてみたいと考えていた時に、インターネットで偶然見つけたのが「宇宙建築」でした。宇宙建築というと、宇宙ステーションなどはありますが、人が宇宙で生活するという観点で建物を造るというのは行われていなかったんです。これから必要になるけれども、まだ誰も取り組んでいないというところにすごく引かれて。宇宙建築の活動をしている人に会うために秋田から東京に行くなど、熱中するようになりました。
[市長]誰もが宇宙で生活する時代が来ますか。
[小林]はい、その世界をつくりたいと思っています。ただ、宇宙に建物だけを造っても実現はできなくて、宇宙でどうやって食料を作るのか、どうやったら快適に生活できるのかといった仕組みを作る必要があります。そのためには、ロケットや人工衛星などの宇宙に関連する企業だけではなく、異分野の企業がどんどん関わっていくことが重要です。それを、どうしたら加速できるか考えた先に行き着いたのが、今の会社の立ち上げでした。
■宇宙で生活できる未来を切り開くために
[市長]小林さんが代表を務める、株式会社ElevationSpace(エレベーションスぺース)では、日本の民間企業では初めて挑む事業に取り組まれていると伺っています。具体的にはどのような事業なのでしょうか。
[小林]簡単に言うと人工衛星を作っており、打ち上げた人工衛星の中の無重力空間で実験を行い、地球に戻すというサービスを開発しています。この地球に戻ってくる人工衛星を活用した民間サービスというのが、日本ではわれわれしか取り組んでいない領域です。小惑星から砂などを持ち帰ってきた国のプロジェクト「はやぶさ」など、日本が培ってきた技術を活用し、商業的なサービスをつくるために取り組んでいます。ゆくゆくは人が乗る有人宇宙船を目指していて、そこに一番近づいている企業だと思っています。
[市長]一般の方にとっては、宇宙に行くことができるようになるというのはまだ想像もできないと思います。一方で、天気予報やカーナビなど、人工衛星を使ったものは身近にあり、あながち宇宙は遠い存在ではないのかもしれません。
[小林]おっしゃる通りで、私も今日この会場に来るのにどのくらいかかるかスマートフォンで調べましたが、位置情報が分かるGPSや天気予報、災害時の通信などにも人工衛星が活用されており、日常の中で欠かせないインフラになっているんですね。また、宇宙の無重力の環境を使って、薬や新たな材料を作るということも行われています。無重力空間では水と油のような、地球上では混ざらないものが均一に混ざるんです。将来的には宇宙で作った物を地球に送り、日常生活で使うという可能性も期待されています。
[市長]なるほど。そのような期待がある中で、2026年の人工衛星打ち上げを目指しているそうですね。
[小林]はい、現在打ち上げに向けた開発を進めています。人工衛星を打ち上げる時は、地上試験用のモデルを作り、宇宙環境を模擬した試験を行うのですが、今はその段階です。課題も見えていますが、現時点では順調に進んでいます。
[市長]プロジェクトを進めるに当たっては、どのような難しさがありますか。
[小林]宇宙産業自体が非常に新しいので、先の世界を見据えながらサービスをつくり、同時並行でお客さんをつくる必要があります。これが宇宙ビジネスの難しいところでもあり、面白さでもあると思っています。また、技術的な点でいうと、人工衛星内で実験した物を地球に戻さなければなりません。そのためには、通常の人工衛星を作る技術に加え、三つの新しい技術が必要になります。一つ目は秒速8キロで飛んでいる人工衛星を地球に戻すために減速させる技術。二つ目は、実験した物が入っているカプセルが大気圏に突入した時に燃え尽きないようにする耐熱技術。最後に、カプセルを海上の狙った場所に落とし、海上に浮かせて回収するまでが三つ目の技術です。これらがプロジェクトにとって重要であり、難しい部分ですね。
[市長]さまざまな困難や苦労があるようですが、その挑戦への原動力はどこから生まれてくるのでしょう。
[小林]宇宙建築に出会って私の価値観や人生観が変わりました。このミッションは自分の人生をかけてやりたいことだと思って、取り組んでいます。目標に向けて着々と進んでいると実感できることが、一番のモチベーションになっていますね。
[市長]そうした挑戦が認められ、2023年には世界的な経済誌「Forbes(フォーブス)」でアジアから世界を変える30歳未満のリーダー30人に選ばれました。大変素晴らしいことで、誇らしく思っています。反響も大きかったのではないでしょうか。
[小林]世界的にも影響力を持つ雑誌で選ばれ、大変光栄です。グローバルに事業を展開していきたいと考えていますので、自分自身や会社の説明をしていく上でも、非常に分かりやすく、後押しになってくれると思っています。
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