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町長コラム ベア・パル

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宮城県利府町

■100年の扉

あの夏、須江監督はなぜ「東北の皆さん、応援ありがとうございます」ではなく「東北のみなさん、おめでとうございます」と言葉を発したのだろう。ずっと頭から離れませんでした。そして言葉を「100年の扉が開かれました」と続け、言葉に深みを持たせました。
「仙台育英全国制覇」の河北新報の巨大な一面は度肝を抜かれましたが、ベンチ入りした19名の選手紹介の紙面を見た時に、ふと「そういえば白虎隊士、自刃で果て、今も飯盛山から鶴ヶ城を見守り続けている白虎隊士のお墓も一九基だったのではないかな」と思いました。やはり、というか、運命とか生まれ変わりとかを感じざるを得ないとゾクっとしました。
2022年、宮城県誕生150周年の年、19名の球児、育英高校の校章を背負ったライオン軍団(学園創立者が会津出身)と呼ばれる16歳から17歳の球児達が東北の歴史を押し上げるべく、時空を超えて登場し、白虎からライオンに姿を変え、刀や槍や鉄砲をバット、グローブ、白球に持ち替えて、山口県下関市出身の下関国際高校を決勝戦で打ち破りました。深紅の大旗が東北新幹線で白河の関を越えた日は8月23日の「白虎隊の自刃の日」でした。
あの夏、東北にアイデンティティを持つ者は、東北人の背負っている思い、戊辰戦争以来の屈辱感、近代を歩めなかった負の側面、産業や学力が低調で後進地として見放され、馬鹿にされ、日清・日露戦争時には弾除けや鉄砲玉として最前線に送り込まれ、女性や子供たちは「おしん」のように生きて、散々な目に合わされた先人の悔しさなど、戌辰戦争で負けたことによって形成される中央に対するコンプレックスやら劣等感、自己肯定感の低さなどが、どこか解消されたような思い、溜飲が下がり、歴史がひと段落した感覚を持ったのではないでしょうか。
近い将来、投資額が8,000億円を超える半導体企業が宮城県に進出します。近隣自治体へのインパクトは計り知れなく、雇用の不安定化、少子化、低賃金等、団塊のジュニア世代が中心となってしまった「失われた30年」のみならず、東北の背負った「近代」の諸課題がそもそも解決されそうな予感がします。まさしくあの夏以降、東北の「近代」への扉が開かれたのではないかと期待しています。
これからも、まだまだ東日本大震災級の災害や新たな感染症禍、大雨洪水、局地的な紛争等多くの困難を経験するかもしれません。しかしながら、我々自治体も東北全体に感動をもたらしたライオン軍団に感謝しつつ、様々な逆境を乗り越えて、開かれた100年の扉の先の栄光を掴み取ってまいりたいと思います。

利府町長 熊谷 大(ゆたか)

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