■〔三番目物/幽玄の世界〕静寂の中で揺らぐ炎 幽玄の世界へ誘(いざな)う「薪能(たきぎのう)」
登米能のように、アマチュアだけで演じられる能は宮城県で唯一。東北地方でも登米能のほかには山形県鶴岡市に伝わる黒川能など、わずかしかありません。そんな貴重な能を一目見ようと、市内外から多くの人が訪れます。
登米薪能は、登米神社で受け取った神火(しんか)4を薪に点火し、会場が幻想的な雰囲気に包まれる中で開演。舞台上に何もない状態で始まり、何も残さずに始まる前と同じ状態で終わりを迎えます。全ての演目が終わった後の静まり返った舞台を見ていると、それまでの出来事が幻だったかのような感覚に。それはまるで、幽玄の世界と現実を行き来する時空を超えた幻想の旅に行ってきたかのようで、今もなお人々の心を魅了しています。
◆薪能の世界を演じる役者たち
さまざまな役割の人たちによって演じられる能。それぞれの役割を紹介します。
○シテ
佐々木 仁(じん)さん
(登米町入谷)
○囃子
布施 紀江子(きえこ)さん
(迫町一市)
○地謡太郎丸 晃(あきら)さん
(登米町金谷
○狂言
佐藤 勝彦(かつひこ)さん
(迫町本田)
○仕舞
高橋 尚(ひさし)さん
(登米町我津郷)
■〔四番目物/次世代への継承〕次世代に受け継がれる先人の技と思い
登米謡曲会では、地域のこどもたちに登米能を知ってもらおうと、登米中学校の体験学習に協力。新たな担い手の育成に取り組んでいます。また、魅力ある登米能を演じることで、たくさんの人に見に来てもらい、知ってほしいと、年間を通して稽古を欠かすことはありません。そうした地道な活動が徐々に実を結び、登米地域在住ではない人や学生も入会するようになってきました。
現在、囃子の笛を担当している涌谷町在住の畑岡さんは、「元々、和楽器が好きだったので、祖母の知り合いに紹介してもらって入会しました。登米謡曲会の皆さんは、能が好きな人や興味がある人であれば、住んでいる場所や年齢に関係なく誰でも温かく迎え入れてくれるので、楽しく活動することができています」と笑顔を見せます。
畑岡さんは、大学で琴を弾いていましたが、笛は入会してから。2年ほど稽古して初舞台を経験しました。「初めて舞台で演奏した時はすごく緊張しましたが、言葉では言い表せないほどの感動がありました」と当時を振り返ります。「たくさんの人に愛してもらえるような演能ができるように、これからも活動していきます。そして、いつかは次の世代へとつないでいきたいですね」と言葉を弾ませ、前を向きます。
◇伝統や郷土を大切にする心を育む
◇緊張の中での初舞台 稽古と経験積み技術磨く
櫻井陽太さん 登米町金谷 Hinata Sakurai
◇夢だった森舞台での舞 肌で感じた魅力と奥深さ
及川舞子さん 迫町山の上 Maiko Oikawa
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