撮影場所:山形精密鋳造株式会社(長井市)
キーワード:ものづくりのバトンを次代に渡すために
特殊なめっき技術を強みに医療用器具の開発に取り組んだ岡崎淳一さんと、自動車部品製造で培った高い鋳造技術で日用品の開発に取り組んだ鈴木浩さんに、山形のものづくりの可能性についてお聞きしました。
■岡崎淳一さん(山形市)
1974年生まれ。山形市出身、同市在住。めっき加工を行うジャスト株式会社の代表取締役社長として、ダイヤモンド電着という特殊な技術を武器に、国内外で特許を取得し医療用器具市場への参入を果たす。近年は、爪やすりや、ぐい吞みなど日用品も開発し、新市場開拓のためのさらなる歩みを進めている。
写真キャプション:国内外で使用されている手術用のピンセットと、自社ブランド「クラフテム」の爪やすりとぐい吞みなどの製品。ダイヤモンド電着が、究極の滑り止めあるいは研磨材となり、製品の持つ性能を飛躍的に向上させている。
■鈴木浩(すずきひろし)さん(長井市)
1968年生まれ。長井市出身、同市在住。ロストワックス鋳造法により、自動車部品などの製造を行う山形精密鋳造株式会社にて、技術部を経て現在は品質保証部部長を務める。創業30周年記念品の製作を任されたことをきっかけに、同社では異色の日用品の開発に関わる。代表作「あやめの茎」は、洗練されたデザインで国内外の注目を集めている。
写真キャプション:ロストワックス鍛造法を駆使して開発した花器「あやめの茎」とソープディッシュ「水面」などの日用品。あやめの茎は、大小さまざまな穴が支えとなり、コップなどに置くだけで美しく花を生けることができる。
◇究極の滑り止めで医療分野に挑戦
めっき加工を行う企業を経営する岡崎さんは、県工業技術センターと共同開発したダイヤモンド電着技術を武器に医療分野へ参入しました。
「2008年のリーマン・ショックで主力事業の売り上げが激減し、不況に強いと言われる医療分野への挑戦を決めました」。
岡崎さんは、自社のダイヤモンド電着を施した手術用のピンセットを鈴木さんに渡し、話します。
「ピンセットの先端に細かいダイヤモンドを接着することで、先端がザラザラになり、究極の滑り止めになります。鈴木さん、試しにこのピンセットで紙をつまんで、引っ張ってみてください」。
想像以上の摩擦力に驚く鈴木さん。ピンセットは簡単に滑りません。
「手術器具の先端にダイヤモンド電着を施すことで、血管の縫合といった細かい手術の作業性が格段に上がります。現在は、300以上の病院に採用され、脳や鼓膜など、拡大鏡を使って行うような微細な外科手術などに使用されています」。
◇記念品の製作をきっかけに日用品分野に参入
花器「あやめの茎」は、その名の通り、長井市の花である「あやめ」の茎の断面をモチーフにした花立てです。
自動車部品を製造する企業に勤務する鈴木さんは、従来の製品とは異色の「あやめの茎」の開発に関わりました。
「きっかけは、当社の創業30周年の記念品の製作を任されたことでした。従業員にアンケートを取り、“自分たちが自宅で使える、長井市ならではの日用品をつくろう”となったのです」。
鈴木さんは、はじめての日用品の開発に戸惑いながらも、県工業技術センターに相談しながら、開発を進めていったそうです。
「当社のロストワックス鋳造法は、複雑な形の金属部品を精密に、大量に製造できる点が強みです。近年、エンジン部品などの需要が減る中で、新たな分野での販路開拓に取り組んでいますが、日用品の開発はその先駆けとも言えます」。
◇お客さまの声が会社の活力になる
「あやめの茎の有機的なデザインはロストワックス鋳造法ならではです。自動車関連分野で培った技術を生かし、自社の強みをPRできる製品ができたと思います。」と話す鈴木さんに、岡崎さんが応えます。
「当社でも、ダイヤモンド電着の汎用性に注目し、ネイルケア用品やピンセットなどの開発に取り組みました。日用品分野では、自社が得意とする技術をお客さまに体験してもらうことができます。お客さまからの評価が、社員の士気を高めるとともに、人材採用でもプラスになりました」。
鈴木さんも、あやめの茎の販売を通した自らの気づきについて話します。
「ありがたいことに、羽田空港の土産店では、あやめの茎が外国人旅行者の注目を集めています。国内外のお客さまに自社の技術を生かした製品を購入していただけることは、作り手の自信や、やりがいにもつながっています」。
◇ものづくりのバトンを未来の山形につなぐために
岡崎さんは、今後の課題について話します。
「これからも新たな分野に挑戦するには、柔軟な発想で技術や製品の開発に取り組む人材の育成と、それを常とする会社の風土をつくることが必要だと感じています」。
鈴木さんが岡崎さんの言葉にうなずき、言葉をつなぎます。
「社員が自慢できる技術や製品があってこそ、会社一丸となって同じ方向性に向かえるのだと思います。我々の世代がその先例を示し、挑戦する風土を築くことで、山形のものづくりを次代につなげられるのではないでしょうか」。
「各社が切磋琢磨する山形のものづくりは、まだまだ伸びしろがありますね。」と岡崎さんが未来への期待の言葉で締めてくれました。
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