■伝統的な工芸品を受け継ぐ難しさ
小山さんは工人を職とすることの難しさもあると言います。
「作業には怪我がつきものです。加えて、独り立ちまでの収入も不安定です。師匠がすぐに私たちの弟子入りを許さなかった理由が今ではよくわかります」。
材料となる「コシアブラ」の成木の調達からが、自らの仕事と話す小山さん。山深くに入っては木を切り出し、乾燥させ、「サルキリ」と呼ばれる大きく鋭い刃物で削り出します。大きな怪我が原因となって、引退する工人もいるそうです。小山さんが話します。
「材料の確保は近年難しくなっています。私たちは、木の幹の太さや曲がり、節などを観察し、笹野一刀彫に適した成木だけを無駄なく切り出します。幼木は将来のために残し、山を荒らしません」。
志田さんがうなずき、話します。
「こけしの材料となる板屋楓(いたやかえで)の成木も近年少なくなっています。家の山で採るほか、業者からも購入しますが、価格が高騰しています」。
二人の言葉に耳を傾けていた逸見さんが話します。
「伝統的な工芸品は、作る人、技術、材料が揃ってはじめて受け継ぐことができます。後継者が技術の習得に専念できる環境をつくることはもちろんのこと、工芸品の材料となる木、土、水などを供給する地域の自然環境も守っていく必要があるのではないでしょうか」。
■守るべき伝統として次代につなぐために
小山さんは、先人の自然の恵みに対する感謝の心や、厳しい冬を耐え抜く粘り強さが、山形の優れた工芸品を生み出してきたと話します。
「お鷹ぽっぽは、五穀豊穣を願う農家の守り神が起源だったそうです。時代の流れの中で、玩具、魔除け、縁起物、インテリアなど、求められる用途が変わり、意匠も変わりました」。
小山さんの言葉に、従来の伝統的なこけしのほか、ユニークな創作こけしを手掛ける志田さんが応えます。
「私がはじめて好きになったこけしは、創作こけしだったんです。創作こけしがきっかけで、伝統的なこけしが好きになるファンもいます。こけしは産地ごとの特徴で系統に分けられますが、菊摩呂こけしは、いろいろな系統が混ざっている独自の作風のこけしです。だからこそ挑戦できることも多いと思います」。
二人の言葉に逸見さんが応えます。
「伝統的な工芸品は、少しずつ変化を続けながら受け継がれて今があります。工芸品を作り、届ける立場の私たちは、何を残し、何を変えていくのかを絶えず考え、発信していくことが大切だと思います。まずは、多くの方々に、小山さんや志田さんの制作の実演を見てもらいたいですね。きっと魅力が伝わるはずです」。
逸見さんからのエールに、二人から思わず満面の笑みがこぼれました。
写真キャプション1:山形の風土に育まれてきた工芸品に新しい要素を加えた商品なども取り扱う、尚美堂エスパル山形店。実演販売など、作り手と買い手をつなぐイベントも開催している。
写真キャプション2:お鷹ぽっぽの昔の型を再現した「古代ぽっぽ」(右上)、コシアブラの木で作った丸い削り花と槐(えんじゅ)の木で作った鷹を組み合わせた「槐花鳥」(右下)、長寿のお守りの「亀」(左下)など、小山さんの作品は多岐に渡る。
写真キャプション3:工人になる決意をした志田さんは、父であり2代目の菊宏さんに師事し、2020年に工人としてデビュー。親子でこけしの制作に取り組んでいる。
写真キャプション4:専用の刃物・サルキリを材料となる木に当て、手作業で繊細な彫りを施す笹野一刀彫。常に大怪我のリスクと隣り合わせでもある。
写真キャプション5:菊摩呂型(右)をはじめ、干支のヘビのコスチュームを着たこけし(左)や、相良人形8代目相良隆馬さんに許可を得て「猫に蛸」(中央)のこけしなどを制作する志田さん。
写真キャプション6:素材であるスゲの栽培にはじまる花笠づくりも、後継者不足が課題になっている。次代へとつなげるため、逸見さんは社内に花笠の工房を設けるなどし、承継に取り組んでいる。
※詳しくは本紙をご覧ください。
<この記事についてアンケートにご協力ください。>