服部文右衛門家に残された、表紙のない10枚(20ページ)ほどの俳句手帳には、南淮の初句に、44句が従う「最上川」の懸題と地元俳人の名が並んで示されています。次いで、「元旦」の小文があり、其松の初句以下8句、再び小文「最上川」に添えて14句。最終に俳額を奉納すべく、南淮の初句を含む21句から成っています。
ここで、牛頭天王宮俳額のことに触れておきます。天保15辰年(1844年)4月吉日の巻頭の一文は次のようになっています。
「卯月の長崎に杖をとめて仲間屋に宿居の折から、例の友々を集め神社の掛額を催さむとす。四季の風雅に時を移せば、予も少しく其庸に津らなる事を悦べし」
咲ぬれば影もにほうかかき津はた 和生
次のページには、発願の文があります。
「羽州村山郡長崎なる鎮守牛頭天王の御社さ以回縁(まわりぶち)に逢い、ひどく神垣(かみがき)も荒れしを今は宮垣ひとしく再建し、いさき神輿を遷(うつ)し了(おわり)ぬ。然るに宝前に額を拝し奉らん事を願い、四季の眺集めむべしとて最上川の発句を諸風土よりもとめ、神いさめに奉連る頼主の願いは、水底浅からず清らかにして予にその端書(はしがき)をかさぬれハ、聊(いささ)か以津める事志かり
動かぬ雲の影なり最上川 古川南淮
蝶飛ぶや慰かたのりの舟支度 古川南淮
(以下次号に続く)
■語句の説明
回縁:天井の回りと壁の接する所に取り付ける横木。
神垣:神社の周囲の垣。神域を他と区別するための垣。
神いさめ:神の心をなぐさめること。
※引用…中山町史中巻第10章第3節 文芸と美術工芸
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