「瞽女説地震身上」の前号の続きです。
天のいましめ今より悟り、忠と孝とのふたつの道を、己れ(おのれ)くが職分守り、上にいる人下あわれみて、下にいる人上敬いて、つねに倹約慈悲深く、奢る心ハ慎しむならバ、かかる困窮あるまいものを、さらは仏も天道さまも、恵み賜へてただ世の中を、末世末代波風たたず、四海太平諸色も安く、米も下値ニ五穀も実のり、地震どころか町在共に、子孫栄えて末繁昌の、基なるべきためしはここに、飾る此身も罪深き、地震潰れの堀立小屋に、しばらく篭りて世の人びとの、監督せよと書き記し置き、筆の命もおくべしや
此本何万参り候共私方へ御届可被下候
東村山郡最上村大字南小路源信勝外三名
斎藤中之家
この「瞽女説地震身上」は、大変長い台本で、異見勇右衛門なる作者の手になるものです。
今日、当町に残る数少ない口誦文芸の台本となっています。文面はともかく、地震の惨状が鮮明で、何人かの瞽女が全文を諳(そら)んじて上演したものかわかりませんが、口調の良い七・五調で区切ってみると、わかりやすい文意となります。恐らく、三味線の音曲に合わせ、瞽女特有の切れの良い語りが、宿の広間いっぱい地元の人びとを集め熱演されたのでしょう。
■語句の説明
職分:その職についている者がしなければならない仕事。各人がそれぞれの立場で力を尽くしてなすべき務め。本分。
四海:国内。世の中。天下。
※引用
中山町史中巻第10章第3節文芸と美術工芸
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