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町長歳時記 (209)

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山形県朝日町

■当たり前のもの
~実は一番尊いものである~

山形県の母なる川、最上川に架かる唯一のつり橋であった大平橋が、新しく完成された大平橋の運用を機に、昨年解体が終了致しました。一つの時代を背負ってきた生活の要が、その任を終え、姿を消すということには、深い意味があります。長年関わりを持ってこられた地元住民の方々の心情を思う時、非常に重い決断無しには行われることがなかった事業でありました。
昨年今平地区で行われた座談会の折の区長さんの言葉が忘れられません。「子どもの頃、つり橋が架かる前は、川向こうの大瀬に行くのに、日に何回かの渡し舟に乗って行くしかなかった。川向こうの店に行こうと思っても、自由には行けなかった。それがつり橋ができたおかげで、いつでも好きな時に橋を渡って、大瀬の店に行くことができるようになった。その時のうれしさと言ったらなかったなあ」
これはその当事者でなければなかなか分からない心情であります。当たり前にあるものとして享受してきた人々と、その前後の状況を心の奥にしまい込みながら日々暮らしてこられた方々の思いとの差を実感させられた話でありました。
今現在世にある多くのものがそうであるように、その有り難さが忘れ去られているような、当たり前のものこそ、実は一番尊いものであることを、私たちは忘れてはならないのです。
現代における有形無形の全ての事柄が、そこに至る忘れ去られた多くの人々の苦労の上に成り立っていることを忘れず、いつも感謝の気持ちを持って暮らしていくことができる人間でありたいものです。

朝日町長 鈴木浩幸

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