■「継承」 伊東広
私は伝統工芸の継承をミッションとして、現在はつる細工とわら細工、かんじき作りに取り組んでいますが、それを実行するためには「人」と「タイミング」が不可欠だったように思います。
人の手による仕事なのでそれを教える人はもちろん、教わる人もいてはじめて成り立ちます。ただ、教えることはつくること以上に大変で単純に時間も割く必要があるため、その適任者と出会うことは簡単ではありません。一方で教わる側も相手に敬意を払い意欲的な姿勢を示すなどして相手のやる気も引き出すことが経験上大切だと思います。
それから出会いのタイミングも重要です。私の場合、大井沢を訪れて、はじめてつる細工などの伝統文化に触れました。そして作り手である地元民、後継者不足の背景などを知ることになります。たとえばかんじき作りにおいては、唯一人のおじいちゃんがやっている話を耳にして、本能的に継承の必要に駆られて門を叩きました。私が教わった翌年にその方は亡くなってしまったので本当にあのタイミングしかなかったのだと思っています。
西川には伝統工芸に限らず魅力的な文化がたくさん残っています。それらが知らず知らずのうちに途絶えてしまわないためには今の時代を生きる人がどうあるべきかが大事なのではと、自身への戒めも込めて綴らせていただきました。
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