林 寛治(かんじ)
■金山町役場庁舎(2)
役場庁舎をはじめとする金山町の公共建築更新が周辺自治体よりも10年程度遅くなったのは、郡内建設業者の技術力向上を我慢して待つという、故岸英一元町長の英断によります。連載前回に載せた木造庁舎の写真の如く、築90年を含む木造旧庁舎で歴代町長および役場職員の皆さんが頑張って執務されていたのを見ております。
1970年代末、役場庁舎設計開始に際して当時の町議会からの要望は、「町有車2台分の車庫・内町側裏手に6台分の車寄せ・町議会関係諸室は地味に小さく・積雪対策」という控え目なものでした。その頃は七日町通りの役場側にカネホ川崎家住宅も残っておりましたから、議員の皆さんがその時点での敷地状況で新たな庁舎がどうなるかを想像し難いのは無理もありませんでした。
控え目な要望に対して、設計者としては一層意欲が燃えて、よし!その辺のニューデザインには乗らずに良いものを創るぞ!と気を引き締めました。私は専門誌で見ていたモダン・デザインに憧れてローマで6年近く過ごしたのですが、歴史を積み重ねた技術や風土、土地の伝統に裏付けられたデザインではない限り、単に新しくファッショナブルな建築物は時間が経てば消費され朽ちてゆくものなのだと、新開地の復興アパートなどを見て実感していたからです。
まず積雪対策については、地質調査の結果、大堰に近接して地下水位が高いが地盤は岩石交じりで強固であるとの報告書が得られ、第一方針として積雪荷重を県条例の2倍(2m余)に設定の上で、自然落雪を想定しました。
役場事務機能については、各課から将来を見据えた人員・希望面積をまとめてもらいました。特に目立ったのは、複数の中小会議室が多めに要望されことです。町長室、助役室等の管理部門は任せるとのことだったので、建築資料の既存庁舎例から面積規模等のみ参考にしました。そのうえで地下1階、地上3階建てをベースに諸機能を明確に配分し、1階に町民に対応すべき事務室部、2階に町長・助役、総務等管理部課と教育委員会、3階は町議会議場と議会関係諸室および図書室としました。地下室は機械関係室と資料倉庫に充てています。
一方、七日町通りに面した正面2、3階を吹き抜けとした多目的の「町民ホール」を設計者として特に提案し、町側から承認されました。それまでは県内同規模の庁舎施設で町民ホールに相当する場は見られなかったので、当初はこの場をどのように活用するか、職員の皆さんが迷われたこともあったようですが、各種会議、集会等催事の都度、椅子や机の配置で、楽しく面白く工夫され、空間が生き生きと成長し続けるのを実感しております。町民ホールは7年前の耐震補強工事の際に臨時事務室としても活用され、役場機能を変えることなく工事予算低減にも大きく資することになりました。
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