林 寛治(かんじ)
■金山町役場庁舎(3)積雪対策と暖房設備工事について
前回の役場庁舎(2)では、施設各課の全体構成を記しました。
「特に建築上の重点は積雪・除雪対策があり、次が暖房設備でした」地球温暖化が叫ばれる以前だったと思います。
山形盆地が長い間日本一の最高気温記録が続いていたこともあり、小盆地金山の冷房はどうするかと伺いましたが、当時の方々は、暑いのはどうせ2、3週間だけだから、我慢するとの控えめな回答でした。
新庁舎の屋根面積が2倍近く増えることから自然落雪を想定し、躯体部を3/10、軒先部を6/10勾配としました。躯体部寄棟屋根片側実長8m+とみて屋根頂上から3・6mに雪止めがあれば、下部は10cm程度の積雪で十分に自然落下すると見込みました。軒先を急勾配にしたのは街並みを意識して新庁舎のヴォリューム感を抑える意味もありましたが、上部から押されてきた10cmの積雪帯が落雪時に小細化して被害が人と周囲に及ばないことを設定したのです。イチヤマ庭園境界と庁舎外壁との空き距離を4倍の3・6m取り空中で砕けた雪の堆雪スペースとして確保としました。
しかし、雪止めが必要であるとの町側意見が出て二段の雪止めが設置されしました。
屋根上の雪止め部に盛り上がった積雪の雪庇が氷化して庇斜面に落下、大きくジャンプしてイチヤマ庭園の塀を破壊したことがありました。下段の雪止めは上部に2m程度上げて移動したほうが良いと今でも安全と考えております。
暖房については、熱源とその消費量が家計・財政に大きく影響します。昔から1945年の敗戦まで、日本住宅の大部分では炬燵と囲炉裏で暖をとってきました。熱源はスミと薪でいずれも周囲にある樹木が自給自足の源(みなもと)だったわけです。都市化と技術的発展により、熱源が石油、石炭、ガス、電気と多様になり、更なる科学の進化で、原子力発電に至ったわけですが、福島原発の事故により、地球温暖化対策も含めて、熱源の行方は見えないのが現状です。
1979年役場庁舎計画時、暖房装置に関しては、勤務時間が一定していることと、執務環境をよりよくする意味から、欧米・北欧で今なお多く採用されている蒸気暖房を進言採用しました。灯油と木材チップ、燃えるゴミに転用可能な北欧スウェーデン製ボイラーを採用し、イタリアで開発された場所を取らない薄手ラジエーターで原則全館暖房を行いました。竣工時から暖房については自然感で暖かく気持ちが良いという意見をいただきました。
1990年代中期、ラジエーターと蒸気配管からの水漏れが出ました、運転時は高温蒸気が走っていますが、暖房しない季節には水滴が溜まりパッキングも劣化したのだと思います。
通常、設備機械装置は、5年、10年と定期維持管理契約を行うのが施工会社の義務と考えます。
東京都区内の公共施設は年度を通じて消防設備もふくめ建築及び設備状況の維持管理検査をおこなっています。
本役場庁舎のボイラー、放熱器共にメーカー各社は、今なお本国で健在のようです。
役場庁舎では、エアコンが安価になった時期に冷房も欲しいという意見が出て、内部天井のレイアウトのみ、助言しました。エアコン設置により、ボイラー等既存暖房設備は休眠中かと思いますが、熱資源小国故に石油価格も安定しているわけではありませんが、大型ボイラーの寿命は長いので、点検修理は行っておいた方が、多様な熱源施設を維持する強みになると考えます。
原発事故は天災のみでなく防潮・防災を甘く見た電力側の人災ではないかと考えます。原発再開が難儀である上に、電力料金が公・私の財政を目に見えて圧迫するのを危惧する事になりました。特に住宅規模の設計においても、維持管理と燃費の面から熱源多様化を意識することがあります。
今回は、積雪対策、暖房設備機器の定期維持管理の必要性について物語として書きました。
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