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【連載】随想 町長の見て歩き(155)

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山形県飯豊町

『夏に駆ける』
後藤幸平

堰き止めていた水が一挙に溢れ出るように、何もかもが動き出した。連日、体温に近い猛暑が続く中で駆け抜ける夏、いや、駆けているのは自分であって季節ではない。どこまでも過密な日程が続くこのごろである。災害後の飯豊町にとっては重要事業が山のように積みあがっており、国や県の予算編成前にあって状況を共有しなければならない緊急な事案に追われているからである。
不思議なことにそんなときであっても、晩酌の時間を削ったりはしないし、ぼんやりと空を眺め白い雲の動きを追ったりすることが無くなったりはしない。俳人芭蕉は『奥の細道』の序文に「月日ハ百代(はくたい)の過客(かかく)にして行かふ(ゆきこう)年も又旅人也」(月日は永遠の旅人のようなものであり、過ぎては来る年もまた旅人のようなものである。人生そのものが旅のようなものである)と記し、達観できた。芭蕉も空を眺めて居眠りしたり、酒に酔いしれて我を忘れたりするときがあったのだろうか。いつの間にか巨匠と自分を比べている大胆さに笑ってしまった。
七月三十日、東京飯豊会の総会が日暮里ラングウッドで盛大に開かれた。六十周年記念事業に豊中稲荷神社獅子舞が招かれ、ふるさとのお祭りにタイムスリップしてみんながすばらしいひと時を過ごすことが出来た。故郷を旅立って生き抜いた方々の期待に何とか応えなければとの思いが溢れるように湧いてくる。お祝いの挨拶で次のようにお話しした。「飯豊町の今は三つのポイントがあります。三本の糸で織りあげる布のようです。一つはハンドメイド、手づくりのまち、みんなで作り上げるまちをめざしています。ふたつ目の糸は大自然とともに自然と共生する、資源循環型の農業を大切にするまちです。三本目の糸は科学のまちであることです。先端科学研究と大学による人材養成、新しい産業のまちづくりです」こう話しながらこみ上げるものがあった。
翌日からは「日本で最も美しい村連合」の十五年目の審査が始まる。
月日を、行交う旅人に例えた無常のときは過ぎ、慌ただしい日々は続く。

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