◇「森林大国やまなし」で人材を育む意義
23年度、甲府工業高等学校の専攻科建築科夜間制には13人の生徒が入学した。
冒頭の大河内さんをはじめ、高校を卒業後、そのまま進学した19歳の生徒や、50代の元看護師など、年齢、経歴もさまざまだ。
甲府工業高等学校に通いながら、有限会社匠建築工房で働く中村信太郎さんは、現在32歳。匠建築工房で勤めるまでは、体育の先生だった経歴を持つ。
「匠建築工房は親の会社なんです。実家が建築関連だったというのもあり、いつかは家に関する仕事に関わりたいという思いがありました」
匠建築工房は、主に建築などの工事現場で、現場全体の施工管理を担っている。中村さん自身、実家を建てた際の現場を父が指揮する姿も目にしてきた。
「じっとしているだけでは仕事は入りません。現場があって、初めて収入になります。ですから、単に業務をこなすだけでなく、お客様の期待以上のものを提供することが大切です。ぱっと見て美しい建築物を造り上げるためには、細部の仕上げにも細心の注意を払わなければいけません。一通り、いろんなことをわかっておく必要がありますし、とても難しいのですが、毎回、学校での勉強が役に立っていると感じています」
現在は、現場でのサポート業務が主だという中村さんに、将来の夢を尋ねた。
「ひょっとしたら、教師時代の教え子たちが、いつか、山梨県内に家を建てるかもしれません。そのとき、再会したり、お手伝いができたりしたら、うれしいです」
山梨県初となる一級建築士の認定校は、多くの人に夢を与えた。
これまで、山梨県は隣県の長野県や静岡県と比較したとき、事務所の数や、技術者の人数も劣っていた。甲府工業高校の菅沼さんは「山梨県から一級建築士を輩出することで、県内の建築文化を底上げできたら」と期待する。
「山梨県は県土のおよそ78%が森林で、そのおよそ半分は県有林です。森林大国なんですよ。一方で、県産材を活用した住宅は、あまり造られていません。今後は、地域で木を育て、その木を使い、住めば住むほど価値が上がっていくような、住宅を『街と共に一緒に育てる』感覚を持つ建築士が生まれたら、と思っています。建築は、そこに住む人、そして、街にとっての財産になるんですよ」
甲府工業高等学校から、郷土を支えるアーキテクトが誕生するのを、関係者は待ち望んでいる。
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