■水素であなたの暮らしが変わる
山梨県がつくった水素は、産業界から注目され、多くの企業が実際に使い始めようとしています。
海外からも「やまなしの水素」に注目が集まっています。
需要が高まって使う量が増えれば、水素エネルギーの製造コストは安くなっていきます。
「水素を使う暮らしが当たり前」の時代がまず、山梨県から始まろうとしています。
◇TOPICS 1
ー水素を使った暮らしは遠い先の〝夢物語〟ではない?!ー
企業が工場などで水素を使う例は着実に増えつつあります。では、私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか──。
県は2025年度から、農業用ハウスで使う「水素加温機」を開発するため、実証実験を始める予定です。JAや農家が太陽光で発電した電力を使って、米倉山の電力貯蔵技術研究サイトで「グリーン水素」※を生産。この水素を燃料にして農業用ハウスを温めるというチャレンジです。
農業用ハウスの加温機は重油を燃料にするのが一般的ですが、燃料をグリーン水素に置き換えることで、コスト削減を実現するための仕組みづくりを進めていきます。
県は他にも、集荷などに使う軽トラックや農作業に使う農機の電動化の検証もしています。
地球環境にとって良い商品を積極的に選ぶ「エシカル消費」が広がる中、カーボンフリーは〝選ばれる商品〟の有力な条件になります。農家にとっては、ブドウやモモなどの作物を「カーボンフリー・フルーツ」として付加価値を高めて売ることで、収益増につながります。
また、近い将来には、水素バスや水素トラックが街を走るのは日常風景になっていることでしょう。
2030年代には、家庭でも水素を使うようになる可能性があります。
いま検討されているのは、各家庭につながっている都市ガスの配管に水素を混ぜる方法です。徐々に水素の割合を増やして、いずれは水素が家のエネルギー源の一つになっていくというアイデアです。こうすれば、新たに水素管を地下に埋設するというインフラ工事が要りません。
水素を使った暮らしは、そう遠い先の夢物語ではないのかもしれません。
※グリーン水素 再生可能エネルギーを使い、製造過程でCO2を一切出さずにつくられた水素のこと。究極のクリーンエネルギーといわれています。
◇TOPICS 2
ー県内でも、海外でも山梨発のP2Gシステムー
「サントリー天然水南アルプス白州工場・サントリー白州蒸溜所」(北杜市)で2024年2月、水素製造工場の建設が始まりました。工場内には県が開発した「P2Gシステム」が使われています。
25年度の稼働を目指し、国内で最大規模となる年2200トンの水素を製造する予定です。年間のCO2削減量は1万6000トンを見込んでいます。
工場内には総延長約2キロに及ぶ水素パイプラインが張り巡らされ、天然水の殺菌などに使われます。P2Gシステムは小規模にすることもできます。
小規模にすることで、既存の工場に設置し、従来は化石燃料を使っていた設備を水素に切り替えることができるのです。これまでのところ、大成ユーレック(大成建設のグループ会社)の川越工場がコンクリート養生工程に、住友ゴム工業の白河工場がタイヤ製造の工程で、小規模版「P2Gシステム」を導入することが決まっています。
また、化粧品メーカーのコーセーが南アルプス市に新工場を建設することが決まりました。この新工場では、スキンケア製品の製造に使うボイラーの燃料として、米倉山でつくった「グリーン水素」が使われます。すでに着工されており、26年上期中に稼働を始める予定です。
海外への展開も始まりました。
インドでは、自動車メーカー「スズキ」の子会社でP2Gシステムの導入検討が進んでいます。工場内で使う再生可能エネルギーの余った電気でP2Gシステムによって水素をつくる計画です。
インドネシアでは、地熱発電で余った電力をP2Gシステムで水素にする試みが始まっています。
海外でP2Gシステムを展開することで、将来的には水素エネルギーを輸入することにもつなげたいと考えています。山梨県が開発した水素製造装置でできた大量の水素を輸入して、日本全体の脱炭素化を後押しすることも実現できるかもしれません。
<この記事についてアンケートにご協力ください。>