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ふれあい×やまなし in depth(2)

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山梨県

◇二刀流どころか三刀流も可能なマルチアスリートに
実は、アスリートの卵を発掘する事業は山梨県が先進例というわけではない。雨宮さんが参考にした「先進県」は福岡と岩手、山形だった。
岩手の1期生には、北京オリンピック・スキージャンプ男子ノーマルヒル金メダリストの小林陵侑選手がおり、福岡、岩手、山形はいずれも「種目適性型」というシステムを採用していた。
種目適性型では、一つの種目に絞って才能を伸ばすのではなく、子どもがさまざまな種目を体験した上で自分に合った競技を探す・選択するという。
「壁にぶつかっても、マルチアスリートは転向できる強みがある。二刀流どころか三刀流だって可能かもしれない。そんなスペシャルな能力を持つ子どもを支えていきたい」
「甲斐人の一撃」が種目適性型になった理由を雨宮さんはそう明かす。
県はプロジェクトを成功させるため、組織を立ち上げた。メンバーは競技団体の関係者、県内の大学教授、スポーツドクターやトレーナーらで、子どもの育成戦略や体験競技選びなど、未来のアスリートのために議論する場となっている。

◇スポーツを科学してメニューを決める
23年1月中旬、合宿が行われた。メニューの一つ「コンディショニング調整」では、健康科学大学の粕山達也・理学療法学科長が登壇。競技特性に応じて、疲労しやすい筋肉や負担がかかる関節などを解説し、具体的なストレッチの方法を教えた。
子どもを支える保護者向けのプログラムもあった。栄養面やアスリートを育成するに当たって大人が意識しておくべきことなどについて、保護者は専門家の講義を聞いていた。
合宿の目玉は、山梨が輩出したトップアスリートとの交流だ。
2020東京オリンピックに出場したレスリングの乙黒圭祐・拓斗兄弟が実際に指導した。拓斗選手が金メダル(男子フリースタイル65キロ級)を見せると、子どもは興味津々だった。雨宮さんは「乙黒兄弟は、こういうプログラムなら今後も協力したいと言ってくれました。心強いです」と話す。

◇23年度は20人が10競技にチャレンジ
2期生の選抜に向けて1月に開かれた体力測定会には、県内全域から約80人の小学4年生が参加し、身長・体重、20メートル走など5つの測定項目に挑戦した。
測定結果だけでなく、測定の際に垣間見られたスキルなどの要素を加味して選んでいる。選考基準にもスポーツ科学が生かされているのだ。
こうした選考の末、23年度の「未来のトップアスリート候補」は20人が選ばれた。
1期生はウエイトリフティング、ホッケー、レスリング、カヌーの4競技にチャレンジしたが、23年度はバージョンアップ。ライフル射撃、スポーツクライミング、ラグビー、アーチェリー、アイスホッケー、ハンドボールを加えた10競技に挑戦することになった。
「山梨県からオリンピアンが育ってほしいと思っていますが、厳しい世界なので全員がオリンピアンになれるわけではありません。オリンピアンを目指すだけでなく、この甲斐人の一撃プロジェクトを通じて、子どもが人間力を高めてもらえたらうれしいです」(雨宮さん)
価値観が多様化し、生き方も多様になった。オリンピアンを目指すのも「あり」だ。果たして、この選抜メンバーから世界を相手にするアスリートは出てくるのだろうか。数年後、結果が出る。

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