◆形成外科での乳房再建について
山梨大学医学部附属病院 形成外科 学部内講師 塩川一郎
乳房再建は、乳腺を切除した後に生じる欠損や変形に対して、できるだけ以前の形態を再現し、乳房喪失感の軽減や、生活の質の向上を図る治療です。
現在では、遺伝性乳がん卵巣がん症候群に該当する患者さんが、リスク低減乳房切除術を選択した場合にも再建が行われています。これらの乳房再建が、乳がん治療の妨げになるという科学的な根拠はありませんし、日本では健康保険の適用となりますので、安心して受けていただけます。
再建方法は大きく分けて、シリコン製の人工乳房(乳房インプラント)を用いた再建と、自分の体の一部を移植する自家組織再建の2通りがあります。また、再建を行うタイミングにより、切除と同時に行う1次再建(同時再建)と、切除術の後しばらく時間をあけてから行う2次再建に分かれます。この再建の方法、タイミングに関しては、それぞれ長所・短所があり、患者さんの状態、希望に応じて選択していきます。
乳房インプラントについては以前、挿入後にごくまれなリンパ腫(乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫:BIA-ALCL)が発症する報告が相次ぎ、2019年にそれまで使用されていたインプラントが発売中止となり、社会問題となりました。
現在では新しいタイプのインプラントが承認され、新インプラント使用後のBIA-ALCL発症率は、ほぼゼロと考えられています。また、以前にtexturedインプラントを挿入した人を含め、当院では術後に年1回定期的な診察・検査を行い、安全性を確認しています。現時点で、当院において術後BIA-ALCLを発症した人はいらっしゃいません。
乳輪・乳頭も再建手術が可能です。当院では、乳房再建の術後半年以降をめどにご希望を踏まえて行っています。
これから普及が期待される治療として、吸引した脂肪を用いて再建する脂肪注入がありますが、現時点では健康保険の適用外です。
乳房再建には、さまざまな選択肢があるため、どの時期・方法がふさわしいかをご提案したうえで、ご本人の希望を踏まえて最良の選択をしていただくことが重要と考えます。そこで、このたび日本形成外科学会の編集で、「患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック」が医歯薬出版株式会社から発売されました。当科医師も執筆に参加しており、外来でもご覧いただけるようにサンプルを1冊設置予定です。再建をお考えのみなさんの一助になればと考えています。
企画 一般財団法人 里仁会
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