今月は白州診療所からのお知らせです
◆もの忘れにつける薬?
白州診療所 所長 武田盛夫
▽「二度ぼこ」という言葉をご存知ですか?
若い方や市外から移住された方には耳慣れない言葉かもしれませんが、山梨県の西側や長野県の南側では、歳を重ねて再び(二度)子ども(ぼこ)のようになることを「二度ぼこ」と言うことがあります。調べた範囲の国語辞典では「二度ぼこ」という言葉を見つけることができず、小学館国語大辞典で「二度おぼこ」という少し意味の異なる言葉を見つけるに留まるため、極めて限られた地域の方言なのかもしれませんが、的を射た良い表現ではないかと思っています。
歳を重ねると、長い年月の間に蓄積した豊富な経験で熟練の技を発揮できるようになる一方、若いころのように器用に体を動かすことができなくなり、計算もゆっくりになるなど子どもに戻ってしまう部分があり、さらにもの忘れも多くなります。もの忘れも年齢相応の穏やかな変化であれば「二度ぼこ」で済まされますが、さっきのこともすぐに忘れてしまうようなもの忘れが急激に進行してしまうような場合は、「二度ぼこ」ではなく病的な変化も考えられるようになります。
▽もの忘れと認知症
今朝食べた食事の内容を思い出せないことは誰にでもあることですが、食事を済ませたことをすっかり忘れてしまうようであれば病的で認知症が心配されます。米国精神医学会では、もの忘れが続き、日常の複雑な作業に援助が必要な状態を認知症と定義しており、必要のないタンパク質が脳内に溜まって脳の神経細胞が死滅していくことが原因で起こると考えられています。認知症の診断は従来からの問診や頭部MRI検査などのほか、アミロイドPET検査や髄液検査でも行われるようになり、より確実な判断ができるようになってきました。
▽認知症の新薬
昨年、日本でも認知症の新しい治療薬が使用可能になりました。脳内に蓄積した不要なタンパク質を除去するという従来の治療薬と異なる、より本質的な治療薬で、テレビなどでも広く紹介されていたためご存知の方も多いと思います。適応となる方が早期の認知症の方のみで、継続した点滴治療が必要な上、治療できる専門医療機関も限られているため、実際に治療を開始した方はまだ多くないとのことですが、治療可能な専門医療機関は広く紹介を受け入れているので、専門医療機関への受診をご希望の方は、かかりつけの医療機関で相談をしてみても良いかもしれません。
▽すでに確立された認知症の治療薬
新薬ばかりに目が行きがちですが、従来からある治療薬にも新しい流れがあり、進行した認知症の方にも使いやすいシップのような形の治療薬も登場しています。これであればご家族が1日1回貼りかえるだけで良く、使い忘れも減り、より確実な効果が期待されます。また、家族の認知症への理解や適切な介護サービスの利用は、薬以上に認知症の改善と進行予防になるとの報告もあり(これは介護と医療の現場では誰もが実感しているところです)、薬に頼るだけが能ではないようです。
▽これから認知症にならないために
認知症の最大の危険因子は年齢ですが、これ以外にも教育不足、頭部外傷、運動不足、喫煙、過度の飲酒、高血圧、肥満、糖尿病、難聴、うつ病、社会的孤立、大気汚染の12因子が報告されており、最近発表されたロンドン大学の研究では新たに40代頃からの脂質異常症と視力喪失も追加されました。なかでも難聴と脂質異常症は認知症との関連が高く、「定期的な運動、禁煙、中年期の認知活動(正式な教育以外も含む)、過度の飲酒を避けるなどの健康的な生活習慣は、認知症になる危険を低下させるだけでなく、認知症の発症を遅らせる可能性がある」と説明されていました。
やはり人として健康的で活動的な生活が、自分らしい生活を支えてくれるようです。すでにもの忘れが始まってしまった方も、まだそうでもない方も、健康的で活動的な生活を送り、健康的な「二度ぼこ」を目指しましょう!
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